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サバイバル

1 :メカ沢β:04/05/20 15:12 ID:XoSgJfc0
どこにいるんだろう?
14人が、一切の雑念もなく、みんなが同じ疑問を浮かべている。
なんでこんな事に?


2 :メカ沢β:04/05/20 15:13 ID:XoSgJfc0
初夏、たまにアッツイ日があるようなそんな時期。
PVの撮影で都内からバスに乗り込み、わいわいしながら揺られる事1時間、まだ目的地には着かない。
今回のPVは曲に合わせて森林での撮影があるという事で、普段の機械に囲まれた撮影とは違う高揚感が全員を包んでいた。
いつの間にか知っている景色はいなくなり、普段の生活では考えられないような木の数が窓の外に見える。
バスに乗車しているのはアイドルグループ、モーニング娘。の14人、それにマネージャ、運転手。
現地ではすでに撮影の準備で各スタッフは先に行っていると聞かされている、まぁ不思議な事ではない。
バスの後ろの座席はまだ運転免許も取れない年齢の女の子たちで埋められていた。
お菓子を広げ、完全に遠足気分である。

「あ、プリッツちょうだい」
「いいよ〜」


3 :メカ沢β:04/05/20 15:15 ID:XoSgJfc0
笑顔が商売の彼女達の素の笑顔。
バスの中で笑い声が響き、隅々まで楽しい気分に包まれている。
その少し前には大人チームの面々が座っている。
子供チームのように騒いではいないが、内心は一緒に騒ぎたいほど興奮している。
モーニング娘。のリーダー、飯田圭織がそれを理性で抑え、後ろに向かって注意する。

「これから撮影なんだから食べ過ぎちゃダメよ〜」
「は〜い」

ホントにわかっているかどうかまでは確かめなかったものの、彼女等もプロである。
キレイに、かわいく撮ってもらわなければならないPVで、おなかのぽっこりでている姿で映りたい者などいない。
聞こえる音が話し声だけなのを確認した飯田はフッと笑みをこぼし、先まで聞いていたMDのイヤホンを耳に当てた。
イヤホンを通り越して聞こえる笑い声に、またフッと笑みをこぼした。


4 :メカ沢β:04/05/20 15:16 ID:XoSgJfc0
10分も過ぎていないと思う、急に後ろから声が聞こえなくなった。
隣を見るとメンバーで一番小さい矢口真里が口をだらしなくあけて寝ていた。
深夜、というほどでもないが夜にやっているラジオがあったからだ、寝せといてあげよう。
こそこそとイヤホンをはずす、それでも声は聞こえてこない。
隣を起こさないように座席の隙間から後ろを確認する。
隙間から今夏卒業する辻希美と加護亜衣が肩を寄り添って寝ている姿が見えた。
双子じゃないのに双子みたい、それを売りにユニットを組んで卒業する二人、なんとなく納得できる寝顔だ。
この二人を中心にいつもバスは騒々しくなる、ムードメーカーというやつだ。
少し背を伸ばし他のメンバーを確認してみる。
それは少し恐怖を感じるほど、みんな熟睡している。
先ほどまであんなにはしゃいでいたのに、それでなくても誰一人もれることなく寝るとは、長きにわたりこのグループに所属する彼女でなくても
その事を考えてみると妙な恐怖感がこみ上げてきた。
その時だった。
頭がくらっとした、貧血のけがあるわけでもないのに、車酔いもしないのに、眠気だ。
強烈な眠気が飯田を襲う。
おかしい、さっきまでまったく眠気なんてなかったのに、そうでなくてもPVの前日はキチンと睡眠をとるように心がけているのに。
アイドルといて7年近くやってきた彼女はスタイルを維持し、髪を綺麗に保ち、肌もつるつるにしてきた、それが彼女なりのプロ根性というものであった。
PVは様々な場面で使われる、つまり多くの人の目に付くわけで、その時に寝不足でクマなんかできてたりしてたらみっともない、
これもアイドルとしての彼女のプロ根性だった。
しかしこの睡魔は、相手にするには強すぎる。
何とか意識を保ったまま座席の定位置に座ろうとする、ちらりと運転席が見えた。
それは混沌に飛び込もうとする意識の見せた幻覚ではない、ましてやそんな顔をした運転手でもない。
運転手がガスマスクをしている。
その異常な光景に目を奪われながらも、思考を働かせる事のできず、意識がフェイドアウトしていった。

5 :メカ沢β:04/05/20 15:17 ID:XoSgJfc0
『飯田圭織・矢口真里』

「・・・ん〜、う〜ん」
睡眠から起きたというべきか、意識が戻ったというべきか、とんでもなく深いところにいた意識を引っ張り出し、飯田は起きた。
とりあえず身体を起こし、まだ重いまぶたを右手でこする。
まだ思考も完全におぼつかない、でも、左手に感じる違和感にすぐに気付いた。
身体を支えていた左手の下には木の根がはっていた、とても力強く。
その驚きにまぶたの重量も吹っ飛んだ、周りを見渡してみる。
深緑、緑、黄緑、青々とする緑、とにかく一面緑である。
声も出ない驚き、彼女の人生ではじめて感じた驚きだった。
無言のまま右から左へ視界を動かす、首が左まで回ったとき、自分の視界のすぐ下に何か見えた。
すぐに下を見てみると、そこにはバスの中で見たまんまの顔をした矢口真里。
脳が指令を送る前に、飯田は矢口を揺り起こした。

「矢口!!矢口!!起きて!!」
「ん〜・・・」
「いいから起きて!!」

両手で肩を持ち、矢口の身体を乱暴に揺らす。
首がガクガクいっていた矢口の振幅が徐々に小さくなる、それに反比例するように矢口の意識はこちらの世界に戻ってくる。

6 :メカ沢β:04/05/20 15:18 ID:XoSgJfc0
「矢口、大変なの!!起きて、ねぇ起きて!!」
「わかったわかったって、何々?」

やや不機嫌に矢口がまぶたを開いていく、誰だってこんな起こされ方をされたら不機嫌にはなるだろう。
でも今はそんなこと言ってられない、状況をまだほとんど把握していない飯田でもそれぐらいはわかる。
矢口の身体を起こす、まだ両手で肩を持っている。
まぶたが半分ほど開き、また閉じたと思うと矢口は手でまぶたをこすりだした。
矢口の目が完全に開いた時は、先ほどの自分のリアクションを見ているようであった。
同じように驚愕し、声が出ない。
声なきまま周りを見渡す矢口、その執着地点は飯田の顔であった。

「圭織!なにこれ!」
「わかんない、わかんないけど・・・」
「え!?バスに乗ってたんじゃ・・・他のみんなは!?」
「矢口これ・・・」

飯田は矢口の腹部を指差した、そこには白い紙。
吐き出した疑問を無視して、矢口がその紙を手に取り、開く。
中には見慣れた打ち込みの文字、都会での生活をしていると嫌でも眼にする画一された文字だ。
その紙にはこう書かれていた、矢口は小さくぼそぼそと文章を読み出した。

7 :メカ沢β:04/05/21 16:29 ID:34uChCNe
┌──────────────────────────────────────────┐
│                                                           │
│モーニング娘。の諸君、突然の事で驚いているだろう。                          │
│ここは、F湖の樹海、君達はここに二人一組で点在している。                      │
│1人1つ、バッグを用意した。                                         │
│中身は二日分の食料、水、ナイフ、毛布、軍手、マッチだ。                          │
│それて各組にそれぞれ1つずつ、異なったプレゼントが入っている、有効に使ってくれ。         │
│君達のやるべき事は1つ、この樹海からの脱出だ。                            │
│方法は問わない、脱出すれば成功とみなす。                               │
│なお、脱出する途中での怪我や死亡などの責任は一切負わないからそのつもりで。 │
│                                                           │
│それでは健闘を祈る。                                                │
│                                                           │
│                                                           │
│   P・S  これはTVの企画なんかではない、真剣なサバイバルだ


8 :メカ沢β:04/05/21 16:31 ID:34uChCNe
手紙を読み終えてしばらく、沈黙が漂っていた。
風邪が走り草木がざわめく、音。
深緑と輝緑の競演、光。
生まれる前からずっとある大地、香り。
左手に触れる大地の上に神々しくも生きる緑、感触。
目の前にある非日常への通告、手紙。
知っていたはずの日常なんていうものは、そこにはなかった。
全ての感覚が、非日常を強調していた。

「な・・・なにこれ・・・」
息を吸うのも忘れる沈黙を打ち破った、矢口の言葉。
震える手で手紙をクシャクシャに握る。
恐怖をたたえたその顔を飯田に向け、言った。

「こんな所に置いてってどうしろっていうの・・・」

「わかんない・・・」
恐怖の半分が怒りに変わり、その怒りの鈍い光を飯田に向ける。



9 :メカ沢β:04/05/21 16:31 ID:34uChCNe
「これじゃ死ねって言ってるようなもんじゃない!!!」
死ね、という言葉に飯田は反応した。

「まだ死ぬかどうかわかんないじゃない!!とにかく落ちつこ、ね」

「落ち着けるわけないじゃない!!」
恐怖、怒り、悲しみ、3つの負の感情を表情に出し、矢口が叫んだ。
しかし、その感情に負けないかのように、飯田は矢口の顔を両手で挟んだ。

「私だって怖いわよ!!でもまずは落ち着かないとダメなの!!」

「で・・・・・・」
矢口は言葉を詰まらせた。
でもこんな状況でどうしろっていうの、そう言おうと思っていた。
飯田の迫力、そして地面につけている右手から伝わる感触で、これが現実である事、そしてとんでもない事だと改めて知らされた。
矢口から怒りの表情が消えた、それを見た飯田は己の恐怖を半分優しさに変え、言った。

「とにかく、冷静になろう。それから考えようよ。」


10 :名無し募集中。。。:04/05/21 16:36 ID:???
サバイバル2000

11 :メカ沢β:04/05/22 12:08 ID:X4eM/U//
飯田は矢口の隣に座った。
1人じゃない、そう考えると恐怖が少しなくなった気がする、そう、1人じゃないんだ。
深呼吸してみる、大げさに、大きく。
普段そんなに意識しない深呼吸という行為、こんな場面で効果覿面だと思わなかった。
矢口も深呼吸を始めた、一人じゃないことを再認識する。
スー、ハ〜、スー、ハ〜・・・。
少し落ち着いてきた。
二人は同時に深呼吸を元に戻していった。

「これ・・・どういうことなんだろ」
矢口の方を向いた、上を向いていた、木々に遮られた空を見るような遠い目。

「わかんない・・・でもやらなきゃいけないことはわかってる」
「脱出・・・でしょ?」
「そう脱出」

先ほどからは考えられないほどゆっくりした時間が流れた。
落ち着く事はやはり正解だったのだ。


12 :メカ沢β:04/05/22 12:09 ID:X4eM/U//
「他のみんなもこうなっちゃってんのかなぁ?」
「多分ね」
「そ〜かぁ」

両手を頭の後ろに置き、ねっころがる矢口。
今になってみると、色んな事に気付いた。

「そういえば、バッグ・・・バッグがあるはずよね」
「ああそうだ!」

飛び上がる矢口。
その矢口の向こう側に、黒いものが二つ見えた、バッグだ。
矢口はすぐさま左にある二つのバッグを二人の間に置いた。
顔を見合わせ、同時のバッグを開く。
中に入っているのは手紙に書いてあるとおりだった。

「異なったプレゼントってこれの事かな?」
矢口がバッグからそれを出した。


13 :メカ沢β:04/05/22 12:10 ID:X4eM/U//
「懐中電灯・・・?」
矢口の腕ほどの太さの懐中電灯である。
「・・・だね。良かったじゃん、これで暗くなっても大丈夫よ」
「・・・」

矢口の表情は晴れなかった。
これから訪れる、この樹海のでの闇。
人一倍怖がりの矢口の恐怖は、こんな小さい光ではぬぐえなかったのだ。
少し空気が冷たくなった気がした、先ほどまでの落ち着きにほころびが出たのだろう。
いつもなら感じないであろうごくわずか沈黙が、何十倍も長く感じた。
状況の打開、飯田が考えたのはこれだった。

「でもマッチもあるわけだし、焚き火も出来るしね。大丈夫だって」
優しく肩を叩く、叩いた分だけ矢口から恐怖が抜けてくれれば、と思った。
「うん」
少し表情が晴れたように見えた、まずはこれでいいのだ。

食料や水を確認して、バッグを閉めた。
意識がバッグから外に向いた、そのとき二人は同時に気付いた。


14 :メカ沢β:04/05/22 12:11 ID:X4eM/U//
「圭織、なにその格好」
「矢口だって同じじゃん」

バスの中で来ていた服とは違う、それはもう明らかに違う、真っ黒なジャージ。
ラインもロゴも一切なし、左胸に白くて小さな刺繍で名前が書いてある。
「なにこれ・・・って事は脱がされたって事?」
「さぁ・・・そうなんじゃない」
こんな状況でそんなことを言う女の子の心理、徐々に気持ちが安定してきている証拠だ、と飯田は思った。

飯田は上のジャージのチャックを開けた、真っ白なTシャツが見えた。
矢口は下のジャージの胴部分を前に伸ばした、真っ赤な短パンが見えた。
互いに自分の色を確認して、相手の色を確認し、顔を見合わせる。
「どうなってんのこれ?」
「でもまぁ動きやすいって事じゃないの」
「あ〜そうか」
「そうかじゃなくて、これからどうすんの」
「・・・とりあえず、歩こう」
「うん」


15 :メカ沢β:04/05/22 12:12 ID:X4eM/U//
二人は立ち上がり、臀部の土を払う。
バッグを手に取る。
「さ〜てと、どっちに行こうか」
「とりあえず高いところに行こう、何か見えるかもしれないし」
「さすが矢口」
「へへっ」

初めて見えた笑顔、完全じゃないけど、それでも嬉しかった。
二人の前方はやや上り坂になっているように見えた、錯覚かもしれない程度に。
「じゃあこっちだね」
「うん、じゃあ行こうか」

二人は歩き始めた、足取りはなぜか軽かった。
二人ということの安心感、普段は大人数でいるからこそ、一人という孤独の恐怖が強く感じられる。
その分、二人の安心感は何物にも変えがたいものだった。

歩き始めてすぐ、矢口がこんなことを言った。
「なんかバトロワみたい」
矢口の何気ない一言、でも飯田にはとんでもない衝撃だった。
二人である事の安心感、二人だからこその恐怖、そしてこの状況。
まさか・・・、飯田は頭を振ってその先の考えを打ち消した。
そんな飯田を横目に矢口は見て見ないフリをした。


16 :メカ沢β:04/05/23 20:06 ID:zTvD3l1s
『石川梨華・吉澤ひとみ』
彼女は夢を見た。
熱くもなく、寒くもない、自分の身体は見えるのに、周りは真っ暗。
地に足がついている感覚がない、でも、浮いているという感覚でもない。
上も下も、前も後ろもないような、そんな空間。
その空間に、石川梨華は1人立っている状態だった。
(何これ・・・ここはどこ?)
歩いてみても進んでいる感じがしない。
(・・・怖い・・・誰か・・・)
言い知れぬ恐怖に立ち止まり、その場にうずくまる。
その時だった。
自分の身体が白く光りだした。
徐々に光は強さを増し、光の膜は厚くなっていく。
身体が熱くなってきた、上下のない世界でぐるぐる回っている感じがする。
意識が白くなっていく、身体が自分のものでない気がしてくる。
もはや恐怖は消えていた。
もう真っ暗な世界は見えない、視点はそこにはない。
見たこともないぐらいに綺麗な光が自分の前を次々飛び交う。
自分のその光になった気がする、自由に飛びまわれる気がする。
その瞬間、ものすごい速さで見の前が真っ暗になり、闇に飲み込まれた。


17 :メカ沢β:04/05/23 20:07 ID:zTvD3l1s
「うあっ!!!」
石川梨華は飛び起きた。
目の前に闇はないものの、また見たこともないぐらいの緑が広がっていた。
夢と現実が混同する。
左下に何か見えた、見てみると仰向けに寝ている吉澤ひとみだった。
「よっしー!起きてよっしー!!」
今は吉澤しか見えていない。
「ねぇ起きて!!起きて!!」
両手で肩を揺さぶる、吉澤の表情が変わった。

「ん・・・う〜ん・・・梨華ちゃん?」
「あっ、早く起きて!!」
「何々〜?」
寝ぼける目をこする吉澤、左手をついて身体をおこす。
左手の感覚に違和感を感じた、チクチク手のひらを刺す感覚。
眠気が一気に飛んだ、そして取り囲む世界が見えた。


18 :メカ沢β:04/05/23 20:08 ID:zTvD3l1s
「え?え?」
急いで自分の置かれている状況を知ろうとする人間の性、首を左右に回し周りを見る。
綺麗な木々が広がっている、もちろん今の彼女等にそんな感想を言う余裕はない。
後に起きた吉澤が訊く。
「何これ!?」
「わかんない・・・」
わかるわけがない、この世界を知ったのは吉澤はより数分前なのだから。
どこから湧き出たかわからない恐怖が彼女等を包んだ。
必死で周りを見渡す吉澤、その吉澤を見つめる石川。
いくら見ても情報は変わらない、取り囲むような緑。
視界の情報を諦めた、そのときに右手の神経から情報が流れてきた。
吉澤の右手には白い紙が握られていた。
吉澤が髪に気付くのと同時に、石川も紙に気付く。
「よっしー・・・これ」
手紙を指差す石川、うん、とうなずき手紙を両手で開いた。


19 :メカ沢β:04/05/23 20:09 ID:zTvD3l1s
┌──────────────────────────────────────────┐
│                                        │
│モーニング娘。の諸君、突然の事で驚いているだろう。               │
│ここは、F湖の樹海、君達はここに二人一組で点在している。            │
│1人1つ、バッグを用意した。                         │
│中身は二日分の食料、水、ナイフ、毛布、軍手、マッチだ。               │
│それて各組にそれぞれ1つずつ、異なったプレゼントが入っている、有効に使ってくれ。  │
│君達のやるべき事は1つ、この樹海からの脱出だ。                            │
│方法は問わない、脱出すれば成功とみなす。                               │
│なお、脱出する途中での怪我や死亡などの責任は一切負わないからそのつもりで。          │
│                                                           │
│それでは健闘を祈る。                                                │
│                                                           │
│   P・S  これはTVの企画なんかではない、真剣なサバイバルだ     │
│                                                           │
└──────────────────────────────────────────┘


20 :メカ沢β:04/05/24 13:53 ID:qOhAyU6q
「あたし達…」
吉澤はポツリとつぶやいた。
「あたし達…どうなっちゃってるの?」
手紙を読んでも状況が飲みこめていない、それは石川も同じだった。
「わかんない…」

「駄目だ駄目だ…冷静にならなきゃ」
吉澤は胸に手を当て、目をつぶり深呼吸をする。
いつも気丈に振舞う吉澤だが、コンサート前など緊張する場面の前では人知れずこのように深呼吸をしていた。
同期の石川はそれを知っていた、時に真似をして自分も緊張をほぐしていた。
日常で見たこの光景、今は少し違うけど。
深呼吸する吉澤を見て、石川は少し気が落ち着いていった。
吉澤の呼吸が段々浅くなってきた、落ち着いてきた証拠である。
呼吸がほぼ正常に戻り、吉澤は目を開いた。


21 :メカ沢β:04/05/24 13:54 ID:qOhAyU6q
「よっしー…」
石川が声をかける、振り向いた吉澤の目は多少の恐怖はうかがえるもののほぼいつもの目をしていた。
「梨華ちゃん」
「どうしよう…これから」
「手紙の通りにするなら、この森から出ないと」
吉澤は立ち上がった。
「でもどこにいるかさえもわからないんだよ!」
石川は声を荒らげ、立ち上がる。
「そんなこと言ったって…じゃあどうしろっていうの!!」
吉澤も声を荒らげた。
「こういう時は動かない方がいいってパパが言ってた」
石川の声が急に小さくなった。
吉澤の迫力に圧されたのではない、自分の意見に自信がなかったのだ。
「梨華ちゃん!今はそんな事言ってらんないよ!!」
まだ声は荒かった、でも先ほどの不意の怒りは感じられなかった。
「こんな所じゃ誰も助けてくれないって!!自分達でどうにかするしかないって!!」
「どうにかするって…どうするの」

「…とにかく歩こう」
「え!?」
「歩こうよ。この森だって無限にあるわけじゃないんだし、歩けばきっとどこかに出るよ」

きっと。
今の自分達にはそれしかない、きっとにかけるしかない。
そのきっとはどこからくるものなのか。
希望?絶望?


22 :メカ沢β:04/05/24 13:55 ID:qOhAyU6q
「…うん」
「よしっ」
「じゃあバッグ持って」
「バッグ?」
吉澤の指差す方向に黒いバッグが置かれていた。
「手紙に書いてあったじゃん、食料とか入ってるって」
そう言うと両手で二つバッグを持ち上げ、右手に持ったバッグを石川に差し出した。
差し出されたバッグを両手で受け取る、取っ手にほのかな吉澤の体温を感じた。
「ありがとう」
「・・へへ」
バッグを渡すと吉澤はキョロキョロ周りを見渡す。
う〜ん、と唸り声を発した後、顔を上げた。
「こっちに行こう」
吉澤の指差す方向、周りと違う何かは感じられなかった。
「どうしてこっちなの?」
「わかんないんだもん。どこ行ったって同じだよ」
そう言うと吉澤は指差す方向に歩を進め出す。
吉澤の強さが身に染みた、こんなに頼り甲斐があるなんて。
吉澤の後ろ姿に見とれていた、何かに気付いた吉澤は振り返る。
「梨華ちゃん、何やってんの?早く行こう」
「うん」
返事には元気がこもっていた。


23 :名無しちゃんいい子なのにね:04/05/24 15:32 ID:u8pF1wM8
・・・キミ、大丈夫?

24 :名無しちゃんいい子なのにね:04/05/25 08:47 ID:???
面白いと思う。手紙のずれと誤字は気になるけど。他の組み合わせ期待。
2トップ以外はどうなるのでしょーか?

25 :メカ沢β:04/05/25 14:14 ID:aghYi3mR
今日は書き込まないage

26 :名無しちゃんいい子なのにね:04/05/25 15:15 ID:VLT7fZVv
>>25ちゃんと読者いるので大丈夫ですョー
落としませんョー
マターリドゾー

27 :メカ沢β:04/05/26 11:08 ID:VarAlfmR
『加護亜衣・辻希美』


┌──────────────────────────────────────────┐
│                                                           │
│モーニング娘。の諸君、突然の事で驚いているだろう。                          │
│ここは、F湖の樹海、君達はここに二人一組で点在している。                      │
│1人1つ、バッグを用意した。                                         │
│中身は二日分の食料、水、ナイフ、毛布、軍手、マッチだ。                          │
│それて各組にそれぞれ1つずつ、異なったプレゼントが入っている、有効に使ってくれ。         │
│君達のやるべき事は1つ、この樹海からの脱出だ。                            │
│方法は問わない、脱出すれば成功とみなす。                               │
│なお、脱出する途中での怪我や死亡などの責任は一切負わないからそのつもりで。          │
│                                                           │
│それでは健闘を祈る。                                                │
│                                                           │
│   P・S  これはTVの企画なんかではない、真剣なサバイバルだ     │
│                                                           │
└──────────────────────────────────────────┘



28 :メカ沢β:04/05/26 11:09 ID:VarAlfmR
二人はしっかりと手を握りながらこの紙を読んでいる。

どちらともなく起きてみると、もうわからなかった。
前を見ても、天使の輪が浮かび上がる飯田の髪はそこにない。
横を見ても、食べる喜びを噛み締めながらお菓子にパクつく紺野の姿はそこにない。
下を見ても、スナック菓子を落として付いた新品のシミはそこにない。
全てにあるのは、緑。
そして、疑問。
「え!?あいぼん!?なにこれ!?」
「え!?わかんない…」
知っているのは横にいる人だけ、他は知らないものが支配する世界。
「え?え?え?」
立ち上がるものの、そこからは動かず首で周囲を見渡す辻。
「……」
無言で辻を見詰める加護。
遠くからザワザワ音がする、その音は次第に近づくいてくる。
音のビクつく二人、加護が辻の太ももに抱きつく、辻がその腕を握る。
風が葉を揺らす音、二人の前方から走る風は二人を通り越すと方向も変えず去っていった。
無言で見詰め合う二人。
「あいぼん、ここは?」
「知らない」
二人の疑問、二人の答え、共に一緒だった。
太ももに抱き着いていた加護が辻のポケットに白い物を発見した。
「のの、これ」
言いながらポケットから白い物を取り出す。
一枚の紙。
辻は加護の隣にしゃがみこみ、加護が開くのを待った。
意を決したかのように、加護は勢いよく紙を開いた。


29 :メカ沢β:04/05/26 11:09 ID:VarAlfmR
読めない漢字を互いに助け合い読んでいくも、樹海、は二人とも読めなかった。
なんとか、手紙を読み終える。

加護の開口一番。
「とにかく、ここから出ろって事?」
辻の開口一番。
「そう…なんじゃない」

手紙の言いたい事はなんとなくわかった。
とにかく、ここから出ればいいのだ。

「みんなもいるのかなぁ?」
次は辻の質問だった、加護は何か閃いたようだった。
「そうだよ!みんなもどこかにいるんだ!」
場違いにテンションが上がった加護、その空間の空気が変わったような気がした。
「のの!みんなをさがそう!」
加護の瞳には先ほどはなかった光をたたえていた。
その光と、妙な孤独感、辻がポカーンとしている。
加護はおかまいなしに話した。

「絶対この森のどこかにみんないるよ!探せば絶対いるって!」
「あ!」
「ねぇさがそう、皆をさがそう!」
「そうだよね。あたし達だけじゃないよね。」
「そうだよのの!皆でこの森を出よう!」
「うん!」


30 :メカ沢β:04/05/26 11:11 ID:VarAlfmR
辻の瞳も光を宿した、妙な孤独感は消えていた。
二人の目の前に恐怖はない、状況に似つかわしくない高揚感が二人の周りを満たしていた。
辻が気付いた。

「あいぼん何その格好?」
「ののも同じの着てるじゃ〜ん」
年長者二人と違い、不必要な疑問は浮かばなかった。
加護が気付いた。

「あ、そうだ!カバンカバン…」
辺りを見回し、180度の地点、二人の真後ろにカバンが二つ。
「あ、カバン発見!」
二人同じにカバンに駆け寄る。
「食べもんとか入ってるんだっけ?」
「さっきのやつには入ってるって書いてあったよ」
カバンを開け、中身をチェックする二人。
加護は手紙と中身を見比べながらチェックしていく。
辻が嘆く。
「お菓子入ってな〜い」
年長者二人と違い、不必要な残念が浮かんだ。
加護が髪を指で叩く。
「よし、全部入ってる」
辻は諦めずにお菓子を探した、見つかったのは別のものだった。

31 :メカ沢β:04/05/26 11:11 ID:VarAlfmR
「あ〜、お裁縫道具まで入ってる」
「お裁縫道具?」
加護は手紙を見直し、気付く。
「それってこれのこと?」
プレゼント、という言葉を指差し、辻に手紙を見せる。
「んじゃない」
そう言いながら裁縫道具をカバンにしまう。
「どうせならチョコとかの方がイイのに…。ねぇあいぼん」
「ねぇのの」
その瞬間だけなら、さながら修学旅行と言えるくらい、空間と状況に合わない会話である。
チャックを閉め、加護は手紙を自分のポケットにしまう。
二人は立ち上がり、お尻についた砂を払い、カバンを持ち上げた。

「どうするのの?どっちに行く?」
「ん〜…こっち」
野生の勘が辻の指先の行く末を決めた。
「本当のの?」
「どっち行ったって同じだもん」
「フフ…、じゃあ行こうのの!」
手を差し出す加護。
「うん!」
手を握る辻。
手をつなぎ、二人は歩き出した。
二人を包む空気は、完全に周りの空気とは違っていた。
それでも、背中にぴったりくっつくような恐怖感は、二人とも感じている。
その恐怖から逃げるように、押されるように、二人は森を進んでいった。


32 :名無しちゃんいい子なのにね:04/05/27 01:40 ID:6ZEI8HYR
美貴帝は誰と一緒なんだろう?

33 :名無しちゃんいい子なのにね:04/05/29 14:01 ID:???
週末だな

34 :メカ沢β:04/05/29 17:53 ID:RMuumjAU
『亀井絵里・道重さゆみ』

「さゆ!さゆ!起きてさゆ!」

泣きそうな顔で道重を揺さぶる亀井。
ついさっき、眠りから覚めてみると、まだ夢だと思っていた。
先ほど見た夢は何だったか覚えていない。
これは夢だと8割思っていた。
木々の香り、土の感触、葉の間に漏れる太陽の光。
混乱した、全ての感触がリアル過ぎたのだ。
もちろん、全て本物なのだが、彼女には理解できず、何も考えられなくなった。
ふと左を見ると、道重がかわいい洋服でも見つけたかのような笑みで寝ている。
夢でもなんでも、起こさずにはいられなかった。

「さゆ!ねぇさゆ!」
「んん、絵里?」
長いまつげがゆっくりと開けられていく、本人もお気に入りの長いまつげ。
その様子にほんのわずかな安堵を覚えながら、亀井はさらに道重を揺さぶる。



35 :メカ沢β:04/05/29 17:54 ID:RMuumjAU
「ねぇ起きて!さゆ〜!」
「なに〜絵里〜?」
開いたばかりのまぶたを擦り、上半身を起こす。
起きたばかりのおぼろげな意識、それでも生き生きとした緑を視覚認識した。
まだ擦っている指が目の前にあるのも無視し、思いっきり目を開いた。

「え!?何ここ!?」
「わかんない…」
バスの中に座っていた、隣にいた新垣さんがせんべいをわけてくれた、絵里も幸せそうに食べていた、見たこともない光景が広がっていた。
有り得ない物事の順序、少し眠っていただけなのに。
キョロキョロ辺りを見まわす道重、右を向けば不安いっぱいの亀井の顔。
来た事もない異世界に、唯一同じ世界のものだとわかる、その人。
その人が不安に飲みこまれている。
道重が口を開く。

「他のメンバーは?」
「わかんない…」
亀井が道重の腕に抱きついた。
互いに少し安心した、他のメンバーはいないけど、絵里がいる、さゆがいる。
でも恐怖には勝てなかった。
「さゆ…」
「絵里…」


36 :メカ沢β:04/05/29 17:55 ID:RMuumjAU
二人は抱き合った、相手の肩に顔をうずめ合い、そして泣いた。
二人しかいない、どこにいるかもわからない、どうなっているのかわからない、なぜこうなったのかわからない。
湧き上がる疑問は考えるまもなく恐怖に変換され、二人の心を巣食っていく。
その恐怖に耐えられない華奢な体は、涙によって逃げ道を作ってくれる。
二人を存在させてくれているのは、涙という逃げ、そして二人という希望。

どれくらい時間が経っただろうか。
そんなに経っていない気がする、でも長いことこうしている気がする。
涙が少し恐怖を放出してくれたおかげで、亀井という存在のおかげで、道重は冷静になれた。
顔を上げ、亀井の耳元でつぶやく。

「絵里、落ち着こう。ね?」
亀井は肩を震わせまだ泣いている。
道重の右手が、亀井の後頭部にそっと添えられた。
優しく、繊細で割れやすいものに触れるように、そっと。
髪にそって頭をなでる、愛しむように優しく。

「絵里、大丈夫。大丈夫。」
母の愛のごとき包容感、安心感。
亀井のぐずる音が収まった。
それを確認すると道重は亀井の肩に手をやり、少し離れた。
真っ赤に目を腫らせた亀井に言う。

「絵里、落ち着いた?」
いつもの笑顔の何万分の一の笑みで亀井を頷いた。
その亀井の向こうに、何か見えた。


37 :名無しちゃんいい子なのにね :04/05/30 09:05 ID:838LkRrK
乙ですー

38 :メカ沢β:04/06/01 10:29 ID:Emx+q5Z0
『紺野あさ美・小川麻琴』

北海道は雄大な大地が引き合いに出されることが多い。
確かに土地が広いし、自然も沢山ある。
でも、こんなに木々の生い茂る森林は見たことない。
歩きながら、紺野は思った。
突然現れたこの森、いや、私たちが現れたといった方が正しいのだろうか。
私の2個前の記憶はバスでサラダ味のプリッツをおいしく食べていたこと。
何であれがサラダ味なんだろう、野菜の味もしないのに…。
そんなことはどうでもいいや、紺野は思った。
そして、私の1個前の記憶は、先ほど麻琴と抱き合ったこと。
わけがわからず互いに困惑して、泣きながら麻琴と抱き合って、少し落ち着いた。
麻琴のジャージの中に手紙が入っていて、読んでみたけど、結局わかったのはここを出なければいけない事、これがTVではないこと。
でも、それだけでもわかったことは嬉しかった、やらなきゃいけない事があるなら、それに向かって突き進めばいいんだ。
紺野は思った。
それに、麻琴がいる。
手紙を読んでもオロオロしていた私を落ち着かせてくれて、きっと麻琴も怖いのに、明るく振舞ってくれた。
それが今、私の歩を進める力になっている。


39 :メカ沢β:04/06/01 10:30 ID:Emx+q5Z0
紺野は握っている手にギュッと力を込めた、その力を受け止めた小川の手。
その感触は即座に小川に伝わり、紺野の方を向いた。

「どうしたのあさみちゃん?」
「ううん、何でもないよ」
こんな状況で何にもないわけがない。
何かあるとすれば、共通の恐怖。
「…ダイジョブだよあさみちゃん」
「……」
「日本なんてねぇちっちゃいちっちゃい。ちょっと歩いたらすぐに出られるって」
「…うん、そうだよね」
「そうそう、新潟から東京まですぐだったもん」
「それは新幹線かなんかに乗ってきたんでしょ」
「う〜ん、でもピュ〜って行ってピュ〜だから」
「ふふふ…、何ピュ〜って」

紺野の恐怖は一時的に影をひそめた、小川のアホトークの勝利である。
二人はなおも手をつなぎながら、森を進んでいった。
どんなに進んでも、同じに見える。
深緑が覆い、隙間から光が地に突き刺さっている。
前も後ろも、右も左も。
もしもこれがピクニックなら、有り余る木々の生命力も、澄み渡る空気のおいしさも、どんなに感動できることだろう。
でも今の二人の感動の対象にはならなかった。
なぜなら。


40 :メカ沢β:04/06/01 10:31 ID:Emx+q5Z0
「あ!!!」
小川が前方を指差し声を上げた、声にビクつく紺野。

「あさみちゃん!あれ!あれ!人じゃない!?」
「え!」
前方を何度も指差す小川、その指の方向を凝視する紺野。
いくら見ても人らしきものは見えない。

「今の絶対人だって!肌色っぽいのが見えたもん」
興奮する小川、UFOキャッチャーでぬいぐるみが取れた時のようなはしゃぎかた。
凝視を続ける紺野、見つからない。

「錯覚じゃないの?」
「錯覚じゃないってばぁ!!お〜い!!!」
両手を口のサイドに当て、大声で叫ぶ。
小川の中で、興奮と希望が恐怖を負かしていた。
紺野の中で、恐怖が創造されていた。

「やばいよまこと!熊とかだったらどうすんの」
紺野の中で、見るからに狂暴そうな熊が木々を跳ね飛ばしこちらに向かってくるのが浮かんでいる。
体長は3メートル、お父さん熊だ、お父さん熊?そんな悠長なこと言ってられない。
小川は隣で叫びつづける。

「お〜い!!!誰か〜!!!」
口に当てていた右手を大きくバイバイするように振る。
紺野が小川の口と手を押さえた。
小さな声で、殺されちゃうって、と言い、小川の動きを封じる。
突然の出来事に反応できない小川、成す術もない。
と、その時。


41 :メカ沢β:04/06/03 12:48 ID:cT7CSH+S
『高橋愛・新垣里沙』

「里沙ちゃん、今声せぇへんかった?」
「うんうん、なんか聞こえた」

一人なら幻聴、二人なら本当。
二人はその場に立ち止まり、もう一度真実を確かめようとした。
高橋は一時停止のようにその場で固まり、新垣は両手を耳に当て音を拾おうと努力する。
…。
!。
「今お〜いって…」
「そうそう、私もお〜いって聞こえた」

一度なら幻聴、二度なら本当。
「お〜い!!!誰か〜!!!」
声の聞こえる大体の方向を向き高橋は叫んだ。
高橋の叫ぶ方向をじっと見る新垣。

「あっ!!!」
新垣が叫んだ。
「どしたの里沙ちゃん」
「今人がいたよ!肌色がす〜って動いたもん!」
「え!?本当!?」


42 :メカ沢β:04/06/03 12:49 ID:cT7CSH+S
目が驚いてると言われる高橋の目が、本当に驚いているのを新垣は見た。
その目のまま振り返り、また同じ方向に叫ぶ高橋。
「お〜い!!!」
叫ぶために口に当てていた手を耳に変え、返事を待つ。
!。
新垣が言う。
「まこっちゃんの声だ!」
高橋が叫ぶ。
「まこっちゃぁ〜ん!!!」

一段と大きくなる声、希望を乗せたその声は何か強さを感じる。
「行ってみようか!?」
新垣が言う。
「こっちの方から聞こえたよね?」
高橋が問う。
「うんうん、こっちこっち!」
高橋の体の前方を指差す新垣。
「いこ、里沙ちゃん」
手を差し伸べる高橋、頷き手を取る新垣。


43 :メカ沢β:04/06/03 12:50 ID:cT7CSH+S
足取りが速い、焦る気持ち。
握る力が強い、焦る気持ち。

行く手を遮る草花は見えていない、前方にある希望しか見えていない。
高橋の目に、新垣の目に、希望がはっきりと見えた。

いつもの見慣れた顔。
苦楽を共にし、笑った顔も、怒った顔も、悲しんだ顔も、楽しんだ顔も、全部見てきた。
当たり前のように接してきたものが、こうしてあるということが、あらためて愛しく感じた。

「まこっちゃん!!紺ちゃん!!」
「愛ちゃん!!里沙ちゃん!!」
4人は抱き合った。
突然異世界の放り込まれた恐怖、どうしてもつきまとう生と死の恐怖。
そんなもの、微塵もそこにはない。
ただ歓喜が、仲間という喜びがそこにあった。
嬉しさがこみ上げ、溢れ出し、具現化され目からこぼれる。
唯一の存在を確認するように、4人は名前を呼び合い、泣き、抱き合った。


44 :名無しちゃんいい子なのにね :04/06/03 20:32 ID:???
よかった

45 :名無し募集中。。。:04/06/04 09:30 ID:???
5期合体かー
そー来たかー(^o^;)

長崎の事件で「バトルトワイアル」が取り上げられたがこの話は娘。同士殺し合いにならない事をキボンヌ

46 :メカ沢β:04/06/07 12:24 ID:i1eon2sW
『藤本美貴・田中れいな』

┌───────────────────────────────────────────┐
│                                                                    │
│モーニング娘。の諸君、突然の事で驚いているだろう。                                  │
│ここは、F湖の樹海、君達はここに二人一組で点在している。                                │
│1人1つ、バッグを用意した。                                                 │
│中身は二日分の食料、水、ナイフ、毛布、軍手、マッチだ。                             │
│それに各組1つずつ異なったプレゼントが入っている、有効に使ってくれ。                    │
│君達のやるべき事は1つ、この樹海からの脱出だ。                                     │
│方法は問わない、脱出すれば成功とみなす。                                     │
│なお、脱出する途中での怪我や死亡などの責任は一切負わないからそのつもりで。               │
│                                                                    │
│それでは健闘を祈る。                                                      │
│                                                                    │
│   P・S  これはTVの企画なんかではない、真剣なサバイバルだ                          │
│                                                                    │
└───────────────────────────────────────────┘


47 :メカ沢β:04/06/07 12:24 ID:i1eon2sW
田中は手紙を見ている。

深深と木々生い茂る中、二人は歩いている。
見たことのある草、ない草、ある花、ない花。
一人前に育った木が無限と思えるくらい立っている。
もう2時間ぐらい歩いただろうか。
2時間前は何がなんだかわからなかったけど、手紙を見てほんの少し安堵した。
とりあえず、出ればいい、と。
しかし北海道にだってこんな森林ないのに、藤本は思った。

田中は手紙を見ている。

「何が言いたかとですかね?」
田中が訊いた。
「ん〜わかんない。でも出ればいいんでしょ出れば」
「でもれいな達にこんな事させる理由がわからん」
田中は小声で言った。


48 :メカ沢β:04/06/07 12:25 ID:i1eon2sW
草を踏む音、小枝が折れる音、風が木々と戯れる音、この空間の音はそれしかない。
二人の内心を象徴するかのような田中の声は、しっかりと藤本の耳に届いていた。
藤本が立ち止まる。
手紙を見ていた田中は藤本より2歩進んで、止まった。
振り返る田中、藤本はうつむいていた。

「どうしたとですか藤本さん?」
中指を軸に手紙を山折りにする、目は藤本の顔を見ながら。
「なんかさ…」
藤本は顔を上げた。
「なんかさ…不安なんだよね」
いつもの気丈な声じゃなかった。
「出られる出られるって心には言い聞かせてるんだけど…歩けば歩くほど…なんて言うのかな…」
「大丈夫です!」
田中が遮った。
「大丈夫ですって!絶対脱出できますって!」
「田中ちゃん…」
いつになく弱気な藤本の顔、その目にいつもの光はない。
田中は続けた。
「れいな達には方位磁石があるけん、絶対出られます!」
「…方位磁石」
藤本はポケットをまさぐった。
中のものを取り出すと、田中の言うそれはあった。


49 :メカ沢β:04/06/07 12:26 ID:i1eon2sW
起きてからの混乱が静まり、田中とカバンの中を調べていた時。
手紙に書かれているプレゼント、自分達には方位磁石だった。
手の平に乗せて回る針の静止を待つ、赤い針の先とNを合わせた。
わかりやすいから北に行こう、そう言って第一歩を踏み出したのだった。

藤本は方位磁石をギュッと握った。
「そうだよね、これがあれば絶対出られるよね」
藤本の表情が晴れてくる。
「だめだ弱気になっちゃ、私達は絶対にここを出なくちゃ」
藤本の目に光が戻ってきたのを田中は見た。
「そうですよ〜藤本さ〜ん。ほら行きましょ、ね」
「あ、ちょっと待って」
藤本は右の手を差し出した。
手の中の方位磁石がクルクル回っている。
針の運動が弱まり、藤本の右前方を赤い針先は示した。
「ちょっとずれてる」
方位磁石をポケットにしまう。
「田中ちゃん、ちょっとずれてたわ。こっちに行こう」
先ほど赤い針が指した方向を、指差した。
「さっすが藤本さん」
田中は嬉しそうに藤本にかけより、二人は歩き始めた。


50 :メカ沢β:04/06/07 12:27 ID:i1eon2sW
それから1時間、二人は歩き続けた。
たわいなく話しながら、先ほどの希望を保ちながら。
藤本が言った。
「少し休もっか?」
「いいですねぇ」
藤本が周りを見回すと、適当な場所にカバンを下ろした。
カバンを下ろしたのを確認すると、田中はテテテッと藤本の元に駆け寄った。
田中がカバンを下ろすと同じに藤本が座り、遅れて田中が座る。
「カバン重いですよね〜」
そう言いながら田中はカバンを開け、ペットボトルを取り出した。
「ほんっとに腹立つよね」
そう言うと藤本はペットボトルのキャップをあけ、水を飲んだ。
その時。
「何か聞こえません?」
田中がキャップに手を当てた所で訊いてきた。
ペットボトルから口を離さずに、んんん、と首を横に振る藤本。
「え〜絶対今何か…」
田中の言葉の途中、その音は二人の耳に飛び込んだ。


51 :メカ沢β:04/06/07 12:28 ID:i1eon2sW
『亀井絵里・道重さゆみ』

「あっ」
道重が声を上げた。

互いに泣き、その恐怖に負かされ、それでも立ち上がろうと亀井と抱き合った。
普段の仲良し状態ではいられない、異常な状況なのだ。
気を強く持たねば、亀井を励まし、無限のような空間にぽつんと二つの小さな希望が灯る。
そんな状況には到底似つかわしくない、道重の声。

拍子抜けするような声に真っ赤に目を腫らした亀井は訊いた。
「どうしたのさゆ?」
同じく真っ赤に目を腫らした道重が言う。
「今…藤本さんが見えた…」

「え!?」
亀井は道重の顔を見つめた、道重はなおも亀井の後方を眺めている。
木目細かくハリをもつ頬、涙で濡れなお一層長く見えるまつげ、かわいい、亀井は思った。
その顔が動こうとする瞬間が見えた。

52 :メカ沢β:04/06/08 09:12 ID:NE2YT/8a
「あっ」
道重が声を上げた。
「やっぱりそうだ!!藤本さんだ!!」
道重の表情が明るくなった。

「ホントさゆ?」
「本当本当!50メートルぐらい先にいる!」
目が輝いている、こんな目をしている道重は嘘はつかない、いや、つけないことを亀井は知っていた。
道重は立ち上がった、そして。

「ふ〜じも〜とさ〜ん!!!」
両手をメガホン代わりに、思いっきり叫んだ。
その姿をただただ見つめる亀井。
道重がこちらを向いた、頬が熟れた桃のような色をしている。
「絵里、行こう!」
道重の言葉を呆然と聞く亀井。
「絵里、行こう!向こうに藤本さんがいるよ!」
道重が手を差し伸べた。
亀井は我に帰った、そこにあるのは希望の一手。
「うん!」
わずかに残る涙を笑顔でつぶし、亀井は立ち上がった。
道重の手を取り、二人は笑顔の原動力に向かって走りはじめた。

「藤本さ〜ん!!!」
「ふ〜じも〜とさ〜ん!!!」
少し走ったところで、亀井にもその希望は見えた。
そしてその横にはもう一つの希望がいるのも見えた。


53 :メカ沢β:04/06/08 09:13 ID:NE2YT/8a
「れ〜な〜!!!」
亀井は叫んだ。
「さゆ!絵里!」
田中が立ち上がった、藤本はペットボトルのキャップを閉め、カバンにしまった。
「さゆ〜!!絵里〜!!」
田中がブンブン手を振り叫ぶ、藤本が立ち上がる。
そして、藤本の前にその二人は現れた。
「道重ちゃん…亀井ちゃん…」
その名前の主達は二人に駆け寄り、抱きついた。
「藤本さぁん…良かったぁ…」
「れいな……」

希望が4つに集まり、大きな一つへと変貌を遂げた。
4人は喜び合い、抱き合い、涙を流し、再会の感動を分かち合った。

ほんの少し冷静になって、藤本が言った。
「しげさん達も歩いてたの?」
道重はまっすぐ藤本のほうを向いて言う。
「いえ全然」
「え?じゃあ今まで何してたの?」
「あ…ずっと寝てました…」
「えぇ!今までずっと!?」
「え…ハイ…」

藤本の表情が歪んだ、楽しさを表す感情に歪んでいった。
「ハッハッハ…、さすがしげさんと亀井ちゃんだね」
「え、いや、そうですかぁ」
「あたし達なんて3,4時間歩いてたんだよ」
「え!?もうそんなに歩いたんですか?」
「そう。それで休憩しようかって言ってここに座ってたの」
藤本が先ほどまで座っていた場所を指差した、道重が気付いた。


54 :メカ沢β:04/06/08 09:14 ID:NE2YT/8a
「なんですかこのバッグ?」
見覚えのない黒いバッグが二つ。
「え!?しげさんたちはなかったの?」
「え・・・わからないです」
「起きた近くになかった?」
「多分気付きませんでした」
田中が言う。
「じゃあさゆ達がいたとこまで戻るっちゃ」
「そうしようか」
藤本と田中はバッグを持ち上げ、こっちから来たよね、と藤本が言った。
二人から離れないように道重と亀井は早足で後を追った。

ちょっと歩いて、バッグ発見。
「あそこにあんじゃんバッグ」
藤本が指差す、その直線状に見覚えのあるバッグが二つ。
「あ、本当だ」
「じゃああそこでこれからのこと考えよっか」
藤本がそう言うと3人は同時に頷いた。


そして日が暮れた…。




55 :メカ沢β:04/06/08 09:15 ID:NE2YT/8a
『加護亜衣・辻希美』

「のの〜、ちょっと火ぃ強すぎじゃない?」
「だいじょ〜ぶだって〜」
生の象徴を見せつけるかのような緑は闇の衣をまとう、暗い夜。
月明かりなんてほとんど当てにならないこの森に、これからの思いをはせた炎が燃えていた。
その炎の持ち主、加護と辻は食料のおにぎりを食べている。
肩を寄り添わせ、焚き火の炎を見つめながらの夕食。
陽気に出発したものの、やはりこの闇に恐怖心が幅をきかせ始めたのだろう。
「みんなどうしてるかなぁ…」
「う〜ん…」
結局誰にも会えなかった。
もしかしたらもうみんな脱出したのかもしれない。
考えるほどに不安が募る。
「もう寝ちゃおっか?」
「うん」
バッグから毛布を取り出す、バッグを閉めて枕代わりにする。
焚き火から2メートルほど離れた場所を払い、バッグを置く。
薄暗いお互いの顔を確かめ、座りこんだ。
「くっついて寝よう」
「うん」
腕や足をぴったりくっつけて、二人は顔を見合すようにして眠りについた。


56 :名無しちゃんいい子なのにね:04/06/09 05:47 ID:???
感想


>>53のミキティーがペットボトルを鞄にしまう所がイイネ!
ミキティーの賢さが出ていて

57 :メカ沢β:04/06/09 12:42 ID:8vvrRArz
『飯田圭織・矢口真里』

炎を見つめ、飯田は足の揉んでいた。
一日中歩いたからなぁ、と、普段のむくみを取るマッサージより強めにふくらはぎを揉んでいる。
隣では矢口が静かに寝息をたてている。
疲れちゃったから寝るね、と一言言ってから聞こえてくるのはかわいらしい寝息。
ふと、今回のことを考えてみた。

運転手がガスマスクをしていたということは、このことが起こるという事を知っていたということだ。
あの運転手は何度も見たことがあるし、挨拶を交わしたこともある。
つまり、ゲリラ集団に突然催眠ガスか何かをバスに投げ込まれたということではない。
ましてや無差別にバスを襲ったとは考えられない。
マネージャを見ておけばよかった、でもマネージャまでマスクをしていたとしたら、どういうことなのか。
とにかく、二人一組で七組いるわけだから、運転手だけの策略でなく、もっと大人数が関わっているということは間違いないだろう。


58 :メカ沢β:04/06/09 12:43 ID:8vvrRArz
それにこのジャージ。
採寸がぴったりだ、きつくもなく、ゆったりしているわけでもなく、まさにジャージとして理想の寸法でできていると言えるだろう。
スリーサイズはもちろん、腕の長さや太もも周りなど細かいデータがないとこんなことができる訳がない。
しかも名前が刺繍されている、これは数多くのジャージからぴったりのものを当日に選び出したわけでなく、本人のスリーサイズの合わせて作っているということになる。
つまり、スタイリストまでもがグル?
過去のデータを盗んで誰かが、いや、それはないはずだ。
自分は成長期を過ぎてしまっているが、成長期真っ只中のメンバーじゃ1ヶ月前のデータでは意味がない。
それになぜジャージがこんなにぴったりくるものでなければならないんだろう?
だいたい大きさでいいものを、わざわざ刺繍までして。
とにかく、運転手のマスクといいこのジャージといい、用意周到に計画された出来事である。

それにこの樹海の中、今日歩いてみて人の気配はしなかった、つまりどこからか覗いて見てる訳ではないようだ。
樹海の大きさを考えると、隠しカメラを固定しておいてもそれこそ何百台と要るだろう。
手紙に書いてあった通りとするなら、TVか何か人に見せる目的じゃないのにこんなことをさせる理由がわからない。
脱出の目的、確かに出なければならないけどどこに出るかわからない私達をこんな所において何をするつもりなのだろう。
大掛かりな計画なのに、最終的にわかるのに誰が脱出かということだけ。
途中経過も一切わからないのに、何をさせたいのだろうか。


59 :メカ沢β:04/06/09 12:44 ID:8vvrRArz
こんなF湖の樹海になんて…。
そういえば、F湖はPV撮影で行こうとしていた場所とは全く別の場所にあるんじゃなかっただろうか。
地理はよくわからないけど、だいたい200〜300キロメートルは離れているだろう。
朝の出発ではあったが、そのままバスで移動したとしても時間がかかるだろう。
さらに私達を樹海の中まで運ばなければならないのだ。
二日分の食料が入っているのから推測するに、一日では脱出できない距離に置き去りにされたに違いない。
ならばどうやって私達をこんな所まで運べたのだろう?
大の男が担いで運んだとしても限界があるだろうし、何より時間の問題だ。
……。

考えれば考えるほどわからなくなる。
疑問だけが次から次へと浮かび上がり、消えることなく浮かんでいる。
…。
だめだ、もう寝よう。
とにかく、今は脱出のことだけ考えて、そしてみんな無事でいることを願って。
飯田は小さくなった焚き火を消し、眠りについた。


60 :名無しちゃんいい子なのにね:04/06/14 18:37 ID:???
更新まだかな?

61 :メカ沢β:04/06/15 15:12 ID:3H2LbgRH
『高橋愛・紺野あさ美・小川麻琴・新垣里沙』

「しっかしこんなもんどうしろってねぇ?」
揺らめく炎に照らされる顔、と、おにぎり、小川麻琴は言った。
こんなもん、それはのこぎりとロープのことだった。
紺野のカバンにロープ、新垣のカバンにのこぎり、例のプレゼントだ。
ある程度アウトドアに慣れた人間なら絶好の道具だが、野外生活の知識がほとんどない彼女等にとっては要らない物でしかなかった。
小川の対面に座る高橋、ペットボトルのキャップを閉めながら言う。

「何かには使えるんじゃない?」
「その何かが問題なんだよ愛ちゃん」
新垣が突っ込む。
「あ、私のおにぎり昆布だった」
「あさ美ちゃん、おにぎりの具なんていいの」
小川が突っ込む。
「でもちょっと頂戴」
「いいよ、はい、麻琴あ〜ん」
「あ〜ん」
「もうまこっちゃん達ぃ、遠足じゃないんだからぁ」
新垣が突っ込む。

そう、遠足ではないのだ。
急に空気が寒くなった気がした。
少しの平和な時間から現実に戻される、ここは樹海。
冷淡な沈黙がのしかかる、聞こえるのはパチパチという焚き火の音。
不思議と皆、動作が止まる、沈黙は心だけでなく体まで支配している。


62 :メカ沢β:04/06/15 15:12 ID:3H2LbgRH
支配を破ったのは、新垣だった。
「でもさ、他の皆は大丈夫なのかな?」
続いて支配を破る小川と紺野。
「きっとあいぼんとのんちゃんは一緒なんだろうなぁ」
「あ、私もそう思う」
「ってことは石川さんと吉澤さんのペアなのかな?」
「あ〜そうかもしれないね」
先ほどの平和が、少し戻ってきた気がした。

そんな中、未だ支配から抜け出せない高橋。
無数の黒い手が体を押さえつける、その手は心にも侵入して、淡く光る希望を隠そうとする。
やめて、隠さないで。
そう願えば願うほど、黒い手は容赦しない、数はどんどん増えていく。

「……ちゃん、愛ちゃん」
「え!?」
「愛ちゃ〜ん、どうしたの?」
小川だった、紺野と新垣もこちらを見ている。
「おにぎり食べて、栄養つけないと明日歩けないよ」
「あっ、うん」
促されるようにおにぎりを食べる、ふと炎を見た。


63 :メカ沢β:04/06/15 15:13 ID:3H2LbgRH
この光は、誰かに届いているのだろうか。
ここに、生きている4つの光があることを、誰か知っているだろうか。
少し顔を上げる、オレンジに染まり、オレンジの様な笑顔の小川が見えた。
その横で同じように笑うのは、紺野と新垣。
そうだ、私は今一人じゃない。
ここにある光は、4人分の大きな光なんだ。
誰が見ていなくてもいい、私達は光を持ってるんだ。

高橋の顔に、笑顔が広がった。
「愛ちゃん、面白かった?」
「え?あ…」
「今笑ってたからさぁ」
麻琴も笑ってるじゃん、また笑顔がこぼれた。
「ほらまたぁ〜」
「麻琴だって笑ってるじゃ〜ん」
「私はこういう顔なの」
「そうそう、まこっちゃんはこういう顔なんだって」
「里沙ちゃ〜ん」
「何〜、自分で言ったんじゃ〜ん」
「あ、愛ちゃんも昆布だ。みんな昆布なのかな?」
「またあさ美ちゃんはおにぎりの話だし」
「ハハハ……」

黒い手は、もう、消えていた。




64 :メカ沢β:04/06/15 15:14 ID:3H2LbgRH
『吉澤ひとみ・石川梨華』

時が止まっている、ように感じる。
吉澤は動かない、目を見開き目の前を見つめる、動けない。
石川は動かない、目を閉じ地面に横たわっている、動かない。
吉澤の頭の中には色んなことが思い出されていた。
バスの中の時、この森で気がついた時、歩き始めた時、暖を取り始めた時。
どれも中途半端に思い出しては次に代わり、ぐるぐると回っている。
何が起こったのか、起こしたのか、わからない。
焚き火が火の粉を上げ、パチッと弾けた。


65 :メカ沢β:04/06/15 15:15 ID:3H2LbgRH
「ねぇよっしー」
後ろを歩いていた石川が、久しぶりに話しかけてきた。
進むのをやめ、振り返る。
「なに梨華ちゃん?」
「もうそろそろ歩くのやめて、どっかで休まない?」
眼差しは真剣だった、無理もない、何時間も歩きっぱなしなのだ。
「そうだね、もう暗くなってきたし・・・」
吉澤は空を見上げる。
空が緑色になったかと錯覚を起こすほど木の葉が多い尽くす、その隙間に見える本物の空。
歩き始めて一度休憩した、そのときから比べて空もだいぶ黒くなってきた。
視線を石川に戻す。
「どこか少し広く場所の取れるところで休もうか」
「うん」
少し嬉しそうな石川の顔、疲れは明らかに見える。
二人は再び歩を進めた、そして・・・。

「ここでいいんじゃない?どう梨華ちゃん?」
「うん」
乱立する木々の中、8畳ほどの平坦な地面を見つけた。
二人は取り囲む木々の中で一番太い木の根元にバッグを置き、自らの身も置いた。
二人が座ってまもなく、石川が言った。
「今日はここで泊まろうよ」
もう歩きたくないのだろう、吉澤は思った。
「いいよ、じゃあ薪とか集めないと」
「うん、でも少し休ませてくんない?」
「うん、ってか私も休みたいし」
二人は顔を見合わせ、簡単に笑った。


66 :名無しちゃんいい子なのにね :04/06/15 23:06 ID:???
なにがあったんだ

67 :メカ沢β:04/06/16 12:35 ID:j950G+vo
一,二分後。
「よし」
吉澤は立ち上がった。
「じゃあ薪でも集めますかな」
ジャージを払いながら石川を見る、上目遣いの石川、いつも思う、かわいい。
「梨華ちゃんはまだ休んでていいよ」
「あ、うん。ごめんね」
「いいよいいよ。まぁそんなに離れるわけじゃないしね」
そういうと腰に手を当て、周りを見渡す。
何か決めたらしく、座っていた正面から右に向かって歩き始めた。
本日の寝床を囲む木を触り、振り向く。
「休み終わったらここらの木、集めといてね」
指で寝床を囲うように指差す。
「うんわかった」
その返事に笑みを見せ、吉澤は再び歩き始めた。

「あ、おかえり」
「ただいま」

吉澤が薪を拾い終わり戻ってきた時には、石川も指示した場所の枝を拾い終わっていた。
石川の集めた枝の上に抱えた薪を落とす。
パキパキパキ、カランカラン、モサァ。
その場にしゃがみこむ吉澤、石川の拾った枝を調べる。
石川が近寄ってきた、仕事振りの評価を貰いたいかのように微笑んでいる。
生き生きした葉をつけた枝を手に取ると、石川の方を向く。
ひざに手を付きこちらを見る石川、少し元気にはなったようだ。


68 :メカ沢β:04/06/16 12:35 ID:j950G+vo
「梨華ちゃん、こういう枝は燃えないんだよ」
「え、なんで?いっぱい葉っぱ付いてるよ」
「この枝どうしたの?」
「落ちてたよ」
「あ、うん。ならいいけど。」
「なんで燃えないの?」
吉澤は立ち上がった。
「こういう生木は水分が多くて燃えないんだよね。葉っぱも枯れたやつのほうが燃えやすいし」
「え、そうなの」
「って昔お父さんに教えてもらった覚えがあるんだ」
「へぇ〜」
思わぬ所で、へぇ〜、が出る、ただしこちらのへぇ〜には無駄がない。
「すごいじゃんよっしー」
「へへっ」

枝の分別。
生木は排除し、太さ別に枝を分ける。
薪をくべる時は細いものから徐々に太くしていくと燃えやすい、と、吉澤。
ふ〜ん、と、石川。

「じゃああともう一個だな」
枝の分別も終わり後は着火だけだと思っていた石川の横、立ち上がる吉澤。
「薪が足りないの?」
言いながら立ち上がる石川。
「いやそうじゃなくて、なんていうか…着火材っていうの…それを採りに行こうと思って」
「着火材?」
「マッチの火だけじゃ枝に火が付かないからね、これもお父さんが言ってたけど。梨華ちゃんはマッチの準備とかしててよ」
「あ、うん、わかった」


69 :メカ沢β:04/06/16 12:36 ID:j950G+vo
再び吉澤が辺りを見回す、何か見つけて小走りすると、3メートルぐらいで立ち止まった。
「なんだ、こんな所にあんじゃん」
そう言う目線の先、吉澤のような白い肌に吉澤のような黒い点がいくつか、白樺の木である。
「なによっしー、それが着火材?」
「うん」
そういうと吉澤は白樺の皮をはがし始めた。
やや白い鰹節ののような皮がはがれていく。
石川はその様子を見ながらバッグの置いてあるところまで行き、バッグを開ける。
ガサゴソとマッチを探す。

「マッチあった〜?」
吉澤の少し間の長い質問。
「まだちょっと…あった〜!」
マッチを高らかに上げ、吉澤の方を向いて振る。
吉澤の左手にはたくさんの白樺の皮が握られている、右手ではみ出た皮を押さえながら、先の枝置き場に戻る。
石川もバッグを閉めて戻ろうとした時、バッグの中に白いものが見えた。

「よっしー、軍手あるよ」
「うそっ」
右手をポケットに突っ込むと、手紙を取り出し、乱暴に振り広げる。
「何々〜、ナイフ・毛布・軍手・マッチ・・・、あ、ホントだ」
「軍手いる?」
「うん、ってか梨華ちゃんもしてたほうがいいよ」
「じゃあよっしーのバッグからも出すよ」
「うん、ありがと〜。ついでに私のバッグからナイフも出しといてくんない?」
「あんわかった」

石川は自分のバッグから軍手を取り出しバッグを閉め、吉澤のバッグに手を伸ばす。
吉澤は左手の着火材を置き、手紙をしまう。
軍手とナイフを取り出してバッグを閉めた時、吉澤はなにやら枝で地面に何か書いているようだった。
軍手とナイフを持って吉澤のいる場所に駆け寄る。

70 :メカ沢β:04/06/16 12:37 ID:j950G+vo
「なにやってんの?」
「ん?焚き火をやる場所を、ね」
太い木の枝で円を書いていた、焚き火を燃やす所を書いているのだそうだ。
「はい軍手」
「あ、ありがとう」
「ナイフは?」
「あ〜…持ってて」
円を書き終わり軍手をはめる。
「え〜、怖いよ〜ナイフなんて〜」
「そんなナイフぐらいで怖がって・・・、何ナイフ?」
「わかんない、これ」
ナイフを差し出す、柄しか見えない、ナイフを受け取る。
「折りたたみじゃんこれ」
「でもいつ出てくるかわかんないよ」
「梨華ちゃんねぇ、黒ヒゲ危機一髪じゃないんだよ。いつ出てくるかわかんないナイフなんて使えないじゃん」
「とにかくよっしー持っててよ〜」
「いやまぁいいけど、使うの私だし」
ナイフをポケットにしまう、さも自然に。
「じゃあもう火ぃ付ける?」
「うん」
待ってましたとばかりに石川が応えた。

円の中心に白樺の皮をかためて置き、覆いかぶせるように細い枝を置く。
いいよ、と吉澤が合図すると、石川は慣れない手つきでマッチを擦る。
シュゥッ、ボッ。
重ねられた枝の下から中心に向かってマッチを押し込む。
マッチの火が見えなくなった。
「大丈夫なのこれで」
「ん〜多分付いてると思うけど…」
その時、先ほどの火は何倍も体を大きくして、枝の隙間から顔を覗かせた。


71 :メカ沢β:04/06/16 12:38 ID:j950G+vo
「あっ」
「ね、言ったでしょ」
得意満面な吉澤、火を見つめる石川。
腰に手を当て吉澤が言う。
「じゃ、ご飯食べよっか」
「そうだね」
そう言うと二人はバッグの元へ行き、再び火の周りに座った。

初めはやんちゃに燃えていた火も、吉澤の絶妙なタイミングでの薪入れに徐々に大人びていき、一定の火力を維持するまでになった。
どこで拾ってきたか、吉澤の前腕ほどある枝も枝置き場にある。
食べる前に一仕事、と、吉澤はその前腕ほどある枝を手に取り、ナイフを取り出した。
「何すんのよっしー」
「ん?これ?まぁ見ててよ」
そう言うと吉澤はナイフの刃を出した。
ナイフが焚き火の光を反射する、当たる光を少しも弱らせることなく照り返すきれいな刃。
その刃を下に向け、枝に当てる。
吉澤はその枝にささくれを作り出した。
黙って見守る石川、黙って作業する吉澤。
吉澤の作業が終わる、ささくれだらけの枝が完成した。
「何これ?」
「太い枝はこうやってささくれを作るとよく火が付くんだよね」
「それも…」
「そう、お父さんから教えてもらった」
「すごいね、よっしーのお父さんって」
「ね、まさか私もこんなところで尊敬するとは思わなかったもん」
枝を置き、ナイフの刃をしまう。
「じゃ、食べよっか」


72 :メカ沢β:04/06/16 12:38 ID:j950G+vo
「よっしーもよく覚えてるね、こういうこと」
「んもうそりゃ厳しく育てられたもん」
並んで火の前に座り、おにぎりと水を出しながらまだお父さんの話。
家族の話をしていると、なぜか安心感が出てくる。
そしてその直後に襲ってくるのは、家族に会いたいという焦燥感。
二人とも火を前に、少し無言になった。

そう言えば前にも、お父さんの話をよっしーとしたことがある。
よっしーのお父さんは女の子だというのに厳しい躾で、殴られることも幾度とあったらしい。
ただそういう場合はよっしーがすごく悪い事をした時だけで、いわれなく殴ることはなかったそうだ。
だからよっしーも殴られても文句が言えなかった、って言ってったな。
そういう風に躾られてたから、よっしーは自分より大人の人が手を上げただけでビクッと反応することがある。
無意識に叩かれる、と反応しているのかもしれない。
ハロモニの『産直娘』の回でそれを見たときは、あ〜やっぱりそうなんだ、って思った。
その時はなんとも思わなかったけど、今こうしてたくましく成長したよっしーを見てると、愛されて育てられたんだな、と思う。

石川はそんなことを考えていた。


73 :メカ沢β:04/06/16 15:16 ID:j950G+vo
「ちょっと梨華ちゃん、聞いてる?」
「え!?あ!?」
「もうちょっと聞いてなかったの、もう」
「あ、ごめん。ちょっとボーっとしちゃって」
「まあしょうがないよ、今日は死ぬほど歩いたもんね」
「…」

何も言えなかった隣でおにぎりにパクつく吉澤。
自分も不安だ、もちろん吉澤も不安だ、なのに…。
なのになんで吉澤はこんなにも気丈なのだろう、石川は思った。

「ついでだから…」
何やら吉澤がゴソゴソし始めた、ポケットに手を突っ込んでいる。
ポケットから出てきたのは、手紙だった。
「これ、燃やしちゃおっか?」
手紙をヒラヒラさせる、時にオレンジを光を跳ね返しながら、時に闇の色を吸い込みながら、紙は揺れてる。

「駄目だよ」
「なして?」
「なんかヒントが書いてあるかもしれないし」
「ヒント?どれどれ…」
そう言うと吉澤は手紙を広げだした、片手は五本の指で、片手はおにぎりを持ちながら二本の指で。
吉澤がブツブツ話す。
普段なら聞き取れないような声を耳をすませて聞く石川。

74 :メカ沢β:04/06/16 15:16 ID:j950G+vo
「……F湖の…ナイフ……異なったプレゼント…プレゼント?」
「なに?プレゼントって」
「いやなんか、ペアでそれぞれ異なったプレゼントが入ってんだって。梨華ちゃんのバッグに入ってた?」
「いや…見てないけど」
「じゃあ私の方か」
そう言うと手紙を地面に置き、その上におにぎりを置く。
左側においてあるバッグを開ける。
背中を向け、ただプレゼントを探す吉澤、を見つめる石川。
物が擦れる音だけが聞こえる、無機質な音の空間。

「あっ、これかな?」
「あったの」
「あ〜多分これだわ」
吉澤が振り返る、手に持っていたのはなにやら白いもの。
よく見ると、透明な袋に入った粉だった。

「何この粉?」
石川が言う、吉澤はその言葉を心の中で同時に言っていた。
「わかんない」
「小麦粉かなぁ」
「ん〜でも小麦粉だけあってもどうしようもないしね」
「あ〜確かに」
二人に心は、この白い粉の正体、を求めていた。
その刹那、一方の心が変化した。

75 :メカ沢β:04/06/16 15:17 ID:j950G+vo
「梨華ちゃん…ちょっと」
「なによっしー?」
深刻な表情の吉澤、不安げに見つめる石川。
「ちょっと…トイレ行ってきていいかなぁ?」
「…いいけど」
コントではない真剣な感じ、余計に面白く思える、日常では。
「いやぁずっと我慢してたんだけどさぁ、もう無理」
吉澤の目がかわいらしく変化する。
「ちょっとその辺でしてくるわ」
白い粉を自分のバッグに入れ、立ち上がる吉澤。
「すぐ戻ってくるから」
そう言いながら石川の前方に向かって小走りをする。
「よっしー紙は?」
「いい、なんかその辺の葉っぱで済ますわ」
相変わらず、強い女だ、石川は思った。

しかし、気になる、あの粉。
腕を伸ばしてバッグから粉の袋を抜き取る。
小麦粉?片栗粉?ホットケーキの粉?
重さも並みの粉程度、正体の突き止めるには、あの方法しかない。
正体不明の食材を口に入れる、それは恐怖でしかない。
うまい、まずい、薬、毒。
その恐怖の先を、見てみたい、欲望。
好奇心。
好奇心は恐怖を圧迫する、押し込めていく、麻痺させる。
その袋を開ける、直前で手が止まった。
……。
石川は袋を開けた。

76 :メカ沢β:04/06/16 15:18 ID:j950G+vo
開けた勢いでフワッと白い粉が舞う。
まだ何かはわからない。
やはり…食べてみるしかないようだ。
袋から目を離し、吉澤の駆けて行ったほうを見る。
まだ来ない。
焚き火の光が届かない闇が、笑っている。
袋に目を戻した。
粉への恐怖心は、消えていた。

指先に粉を少しつける。
袋から指を出す、指先が白い。
ちょっと舐めてみればすぐわかる、好奇心が行動を操る。
石川の舌が、指の粉をこすり上げた。
粉が舌から口に入る。
舌の上でも、口の中でも、無味乾燥。
誘惑、欲望、好奇心。
粉の余った指を口の中に入れた。
やっぱり味はしない。
指を抜きとり、なぜか指を眺めてみる。

77 :名無しちゃんいい子なのにね:04/06/18 06:16 ID:???
ドキドキ・・・

78 :メカ沢β:04/06/23 16:52 ID:K8hAKowC
「何これ…」
思わず声が漏れる。
その時だった。
頭がクラクラする、ポワ〜という擬音語がピッタリ当てはまる体の感覚。
目の前が少し明るくなった気がする、少し体が浮き上がった気がする。
この感覚…どこかで…。
考えることができない、段々思考する場所が白くなっていく。
ああ…気持ちいい…。
今にも体が浮き上がりそうなところで、意識が戻ってくる。
徐々に体が地に引き寄せられる、目の前に闇がまた巣食っていく。
「あ…あ…」
声が漏れる、しかし気にするような理性がそこにはない。
戻りたくなかった、感じたこともない、感覚。
思考が戻ってくる、この感覚の原因、白い粉。
思考が元の状態に戻る前に、もう白い粉に手は延べていた。
五指でつまむように粉を取る、そのまま口に突っ込む。
光が戻ってきた、体が熱くなる、月が私を呼んでいる。
どこかで…前にも…こんな感じ…。
頭が白くなっていく、光はなおも集まってくる、体はもう浮いている感覚。
前にも……。
理性は思考を巣食っていく白いものに覆い隠された。


79 :メカ沢β:04/06/23 16:52 ID:K8hAKowC
「ああもうこれでいいや」
目の前にある木の葉を3枚もぎ取る。
「早く梨華ちゃんの所に戻らないとなぁ」
使用済みの木の葉を捨て、パンツとジャージを同時に上げる。
前方には木があるが、そのサイドからは自分達の作った光が漏れて見える。
ポケットに入れていた軍手をはめて、いざ我等の光へ。
目の前の木を避けると直接光が見える。
光が見える、その奥にあるものが見えない。
「あれ?梨華ちゃん?」
木に隠れる直前、覗いたときには確かに見えた。
今見えるのは焚き火だけ。
不思議に思いながら、その場所に向かって歩く。
やっぱり見えない、少々の不安が生まれる。
「り〜かちゃ〜ん」
呼んでみるも返答はない、そしてまだ見えない。

そしてその場所に、戻ってきた。
石川は、座っていた場所に寝ていた。
ただ、体がひどく、痙攣していた。


80 :メカ沢β:04/06/23 20:14 ID:K8hAKowC
「梨華ちゃん!!」
石川に駆け寄る、おにぎりが地面に落ちているのが見える。
そして、白い袋が手に握られているのも。
「梨華ちゃん!!」
背中から手を回し、体を起こす。
左手に白い袋、右手は白く染まり、口元も白かった。
目の焦点は合っていない、口からは聞いたこともない声とヨダレが漏れている。
この異常な光景、原因がわかった。

「梨華ちゃん!!この粉!!」
左手から袋を取り上げる。
「この粉食べたんでしょ!!ねぇ梨華ちゃん!!」
その時、石川の目の焦点が戻ってきた。
「梨華ちゃん!!」

吉澤を見る石川、その顔は徐々に怒りに変わっていく。
石川の目が袋の方を見た、向きなおした石川の顔は見たこともない憤怒を表していた。
石川の右手が激しく吉澤の左肩を押す。
その抗力は吉澤を飛ばした。
その行動に、その抗力の強さに、吉澤は驚いた。
目の前の石川は、とんでもない速さで立ち上がると、もう一度袋に目をやり、そして、吉澤は睨んだ。

81 :メカ沢β:04/06/23 20:15 ID:K8hAKowC
「ううう…ううう…」
唸り声、である、あの石川が、だ。
目の前の光景が信じられない吉澤、恐らくこの森で目覚めてから一番の、驚愕の光景。
このまま、石川という殻を破って、何かが…。
「そのふくろぉぉ!!!」
乱暴に叫び散らす石川。
一瞬袋に目をやる吉澤、すぐに殺気を感じて石川に目を戻す。
「一人占めしよぉぉってんだろぉぉがぁ!!!」
石川の声には聞こえなかった、いや、目の前にいるそれが、石川にさえ見えなかった。
「くぉのやろぉぉ!!!」
恐怖のそれは襲ってきた。

「待って梨華ちゃん!!梨華ちゃん!!」
「うおぉぉぉ!!!」
止まらない、止められない。
しりもちをついている自分、襲われようとしている自分、もうどうしようもない。

迫る石川。
吉澤は目をつぶり、石川の方に向けて足を上げた。

なおも迫ってくる。
もう何も見えていない、見えるのは真っ暗なまぶたにも見える変わり果てた石川の姿。

82 :メカ沢β:04/06/23 20:16 ID:K8hAKowC
「うわぁぁ!!!」
吉澤は足を曲げ、思いっきり伸ばした。
猪突猛進の石川に、それは当たった。
人間の重さが足に加わる、吉澤は目を開けた。
足の先には、石川がフェイドアウトしていくのが見える。
つまずき、倒れていく。
その瞬間の顔を見た、表情に変わりはなかった。

ドスン。
石川が倒れた。

メンバーには殴り合いのケンかでは負ける気はない、力を使えば負けない、だから今までメンバーに力を使ったことがなかった。
今の私の力は、誰に?

83 :メカ沢β:04/06/23 20:17 ID:K8hAKowC
石川は動かない、恐る恐る立ち上がる吉澤。
石川が倒れている、ピクリとも動かない。
自分の右手に何かある、何か握っている。
とても憎らしい白い袋だった。
その袋をその場に落とす、今はこの袋のことより…。
石川に近寄る、まだ動かない。
顔はいつもの石川に戻っていた、それでも動かなかった。


84 :メカ沢β:04/06/23 20:18 ID:K8hAKowC
時が止まっている、ように感じる。
吉澤は動かない、目を見開き目の前を見つめる、動けない。
石川は動かない、目を閉じ地面に横たわっている、動かない。
吉澤の頭の中には色んなことが思い出されていた。
バスの中の時、この森で気がついた時、歩き始めた時、暖を取り始めた時。
どれも中途半端に思い出しては次に代わり、ぐるぐると回っている。
何が起こったのか、起こしたのか、わからない。
焚き火が火の粉を上げ、パチッと弾けた。


85 :名無し募集中。。。:04/06/26 00:01 ID:???
面白くなってきました、
続きを期待しています。

86 :メカ沢β:04/06/28 12:32 ID:IZds/ng9
「梨華…ちゃん…」
1メートル先の石川にはその声は届かない、それは、声量の問題ではない。
そっと近づいていく、誰に聞かれたくないのか忍び足で。
石川の横にしゃがみこむと、横向きに倒れる石川は仰向けにする。
眠ったように動かない。
石川の顔を照らす焚き火のオレンジの光に、少しの月明かりが混じる。
その顔色は、月明かりが強いのか、少し青くも見えた。
石川の肩に手を当て、叫ぶ。
「梨華ちゃん!!梨華ちゃん!!大丈夫梨華ちゃん!!」
肩を乱暴に揺らすも返事はない、続けて叫ぶ。
「梨華ちゃんごめん!!だから起きて!!ねぇ梨華ちゃん!!」
涙は溢れ出てくるのは、自責の念?
それとも…。


87 :メカ沢β:04/06/28 12:33 ID:IZds/ng9
「梨華ちゃん!!起きて!!」
もう体を揺さぶることもできなくなっていた、その力は涙と一緒に出ていってしまっていた。
ただ叫んだ、そして、泣いた。
涙は頬を伝うまでもなく地面に落ちる。
異常な世界、異常な状況、異常な粉。
たとえ全てが異常だったとしても、彼女の中に拭えない感情がある。
石川を、殺してしまった、のか?
信じたくなかった。
でも目の前の石川は動かない、いつもみたいに笑ってくれない。
自分がキチンと粉をしまわなかったから、トイレなんかに行ったから、私なんかと組んだから…。
後悔が次から次へと生まれてくる。
いくら後悔しても、もう、笑ってくれない。
自分を踏み潰すかのような念が、次々と涙を外に押し出していく。
「梨華……ちゃ…」
声さえも涙に変わっていた。
石川の腹部に顔をうずめる。
涙は石川のジャージに音もなく吸い込まれていく。
あと涙にできる力は、生きる力しか残っていなかった。


88 :メカ沢β:04/06/28 12:34 ID:IZds/ng9
彼女は夢を見ていた。
真っ暗な世界。
上下左右、温度、重力、そんなものがない世界。
(ここは…)
石川には覚えがあった、たしか前に来たことがある。
とりあえず歩き出してみる、しかし全く動いている感覚がない。
(やっぱり前に来たことが…)
いつのことだったか、来たことのある世界。
でも、来たことがあるとしても、その世界への恐怖はかえることができない。
真っ暗で、ポツンと一人浮かび上がる、孤独。
全ては闇、恐怖の具現。
(イヤ……怖い…)
石川の心を闇が食っていく、見えている空間同様に心が闇に覆われていく。

立っていられなくなった、いや、立っている感覚はないのだけれど、目をつぶりうずくまるように体を丸めた。
その時。
心の闇が逃げていく、心に光が充満していく。
目を開けると自分の体が光っている、光の衣をまとっているかのようだ。
光の粒子は体内から溢れ出てくる、光はさらに強くなる。
ふと前を見ると、不思議な、そして、綺麗な光は無数飛んでいる。
わずかな残像を残しながら、自由に闇の中を飛び回っている。
体を見てみると、同じくらい綺麗に光っている。


89 :メカ沢β:04/06/28 12:35 ID:IZds/ng9
(私も…飛びたい!!)
飛んだことはないけれど、飛び回る光達を見て、なんとなく飛ぶ感覚がわかる気がしてきた。
目を閉じて意識を集中する。
私は、飛ぶんだ。
体が浮いている気がする、もともと地面はないけれど、飛んでいる気がする。
目を開けてみると、光達の仲間になっていた。
(飛んでる!!!飛んでる!!!)
闇も空間で自由に飛びまわる、光とともに。
それが楽しくて、嬉しくて、面白くて、たまらない。
光が足元をすり抜け、その光を追うようにして飛んでみる。
自由を、手に入れたんだ。
もう闇の恐怖も、孤独の恐怖も、消えている。
あるのは光のように飛びまわる快楽、他には考えられない。

それは突然だった。

「梨華ちゃん!!梨華ちゃん!!」
どこからか声がする。
その正体は見えない、でも、この声は聞いたことがあった。
聞いたことがあるなんてもんじゃない、いつも聞いてる声だ。


90 :メカ沢β:04/06/28 12:35 ID:IZds/ng9
「梨華ちゃん!!梨華ちゃん!!」
自分の名前を叫ぶ声、いつもの声。
飛びまわるのを止める石川、なお飛びまわる無数の光。
その光が自分の前方に集まっていく。
集まっていく光は徐々に大きくなっていき、最後の一つが入った時には大きな光と化していた。
その光をただ見つめる石川。
と、その大きな光は徐々に形を変えていく。
「梨華ちゃん!!」
その声は目の前の光から聞こえる。
光は人の形に変化していく、そして…。

「梨華ちゃん」
その声が聞こえたときは、光は吉澤に変化していた。
「よっしー…」
光る吉澤の後ろには、何やら縦に光が見える。
「梨華ちゃん、行こう」
右手を差し伸べる吉澤、その手は5メートル先にあった。
「行こうって…どこに?」
その質問に、吉澤は微笑んで答える。
「どこにって、私達の世界だよ。私や梨華ちゃん、みんながいる世界だよ」
「…」

91 :メカ沢β:04/06/28 14:50 ID:IZds/ng9
石川は答えられなかった。
自由に飛びまわるのが楽しくて、一生この状態でもいいと思っていた矢先のことだったからだ。
うつむく石川、吉澤はそれを察知した。
「梨華ちゃん…私の後ろにあるこれはね…」
石川が顔を上げる、吉澤は左手の親指で後ろの光を指差す。
「これは私達の世界への入り口なの。この闇の世界から脱出できる唯一の裂け目なんだ」
呆然と見続ける石川、なおも吉澤は続ける。
「この裂け目、あと少しで閉じちゃうんだ。もし閉じちゃったら、一生ここから出られない」
吉澤は強く右手を差し出した。

「だから早く、行こう」
「…いいよ…行って」
「何言ってんの梨華ちゃん!!出られなくなるよ!!」
「いいの私は!!」
石川が叫んだ。
「私はここが楽しいの!!もうあんな世界に戻りたくない!!」
「…梨華ちゃん」
吉澤は右手を下ろした。
それを見て、つぶやく石川。
「ごめんよっしー…」

92 :メカ沢β:04/06/28 14:51 ID:IZds/ng9
腰に手を当てる吉澤、大きく息を吸い込み、話し出した。
「梨華ちゃん、ここはね、見てわかる通り闇の世界なの。確かに飛んでたら楽しいけどさ、梨華ちゃん一人ぼっちなんだよ、ずっと」
石川の目から、何の感情なのか、涙がこぼれた。
「一緒に笑ってくれる仲間も、叱ってくれる先輩も、泣いてくれる親友もいないんだよ、ここには。そりゃぁさ、仲間がいれば行き違いもあるしケンカもする。でも、それ以上に仲間が愛しく思えることがいっぱいあると思う」
涙で吉澤がぼやけて見える、けれど言葉はとてもよく聞こえる。
「言ったじゃん、一緒に抜け出そうって。約束したじゃん」
吉澤は微笑んだ、とても優しく、とてもかわいく。
「行こう、梨華ちゃん」
吉澤は右手を差し出す。
「行こう、光の射す世界に」
石川は涙を拭った、吉澤の優しい笑顔が見えた。
「うん」
そう言うと走って吉澤に向かっていく、手を差し伸べ微笑む吉澤。
手を握って吉澤を見る、いつものとても優しい笑顔。
「じゃあ行こう」
「うん」
二人は光の中に入っていった。


93 :メカ沢β:04/06/28 14:52 ID:IZds/ng9
「う〜ん…」
それは吉澤の右の耳に入った音だった。
それは紛れもなく、聞きたかった声だった。

「苦しいよ、よっしー」
急いで顔を上げる吉澤。
声のする方を見ると、つぶらな瞳が待っていた。
その瞳の持ち主は上体を起こすと、いつもよりも優しい声で言った。

「よっしー」
「梨華ちゃん!!」

二人は抱きしめあった。
それは、再会、というものの最たるものであった。
二人の目からは涙があふれる、この涙の原料は、感動。

「梨華ちゃん!!ごめん!!」
「よっしー痛いよ〜」
「ごめん!!」
「私もごめんね」
しっとりとした声で、石川は話し出した。

「私、こっちの世界は恐怖しかなかった。だから逃げちゃったんだと思うの。だからね、妙な世界に行った時に、もう戻りたくない、って言っちゃったの。でもこっちの世界でも、向こうの世界でも、私を勇気付けてくれたのは、よっしーだった…」

吉澤は黙って聞いていた、なお続ける。

94 :メカ沢β:04/06/28 14:53 ID:IZds/ng9
「よっしーがね、向こうにいたよっしーが、行こうって言ってくれたの。みんなのいる世界に、光の射す世界に、って」

吉澤は再度ヒシっと抱きしめた。

「だからね、もう私逃げないって決めたの。それもこれもよっしーのおかげなんだけど、本当に…ありがとう」

石川は強く吉澤を抱きしめた、答えるように、吉澤も抱きしめた。
状況を読めない焚き火の弾ける音にも気付かず、二人は強く抱きしめあった。

しばらくして、二人は体を離した。
顔を見合わせると、互いに照れ笑いを浮かべた。
瞳に残っていた涙が、笑顔に潰され頬を伝った。
涙を手で拭いて、吉澤が言う。

「梨華ちゃん、すごかったよさっき」
「すごかったって何が?」
「うがぁぁって私のこと襲ってきて、覚えてないの?」
「…全然覚えてない」

沈みかける石川に、どこか遠くを見る吉澤。
木で半分隠れる月を見ながら、吉澤が口を開く。
「ま、しょうがないよね。あの粉のせいだもんね」
「あ…あの粉…」
「そうだ、あの粉!!」

95 :メカ沢β:04/06/28 14:53 ID:IZds/ng9
そう言うと吉澤は月から目を離し、振り返ると落ちている粉まで歩いた。
黙ってみていた石川から漏れる言葉。
「よっしー…」
吉澤は粉の落ちている地点で立ち止まると、じっと粉を睨みつける。
しゃがみこんで袋の口を縛ると、立ちあがった。
袋を睨みつけたまま、そのまま後ろに下がっていく。
1歩、2歩、3歩、4歩。
4歩下がるとまた立ち止まり、睨みつけていた視線を石川に向けた。

視線の険しいまま、吉澤が言う。
「あんな粉、もう要らないよね?」
視線の圧迫感は感じなかった、その視線の持つ感情と同じものを持っていたから。
「うん」
返事を聞いた吉澤の顔は一瞬安堵の表情を見せた、そしてまた険しい目つきとなり、その視線を粉に向けた。

ふう、と深呼吸すると、意を決した。
吉澤が走り出した、そして叫んだ。

「ふざけるなコラァァ!!!」

その怒りと共に右足を上げると、力いっぱい袋を蹴り上げた。
袋は吉澤のキック力と怒り、そして石川の怒りをも受け、飛んだ。
袋はすごい速さで飛んでいくと、闇に吸い込まれていった。
袋の行き先を見つめる二人、ガサッという音。
同時に袋の行き先から目を離し、同時に顔を見る、同時に目が合う。

「ナイッシュ〜!!」
「へへっ」

石川の感謝の言葉に、吉澤は照れ笑いで答えた。

96 :メカ沢β:04/06/28 19:20 ID:IZds/ng9
そして、夜は光に薄れていく。

97 :メカ沢β:04/06/30 13:22 ID:???
『矢口真里』

矢口は歩いていた。
もくもくと、もくもくと。
バッグを握る手には、バッグを持つのに必要な力以上の力がこめられている。
唇を少し内に巻き、弱く噛みながら、歩く。
底に少し土の付いたバッグは、パンパンに膨らんでいた。

98 :メカ沢β:04/06/30 13:22 ID:???
『藤本美貴・亀井絵里・田中れいな・道重さゆみ』

「んにゃ」

寝言、とは言えないような声を発し、田中は寝返った。
田中のお気に入りスポット、それは、枕の下。
夏にはひんやりした枕の下に手を入れると、絶妙なひんやり加減にほのかな幸せを覚える。
夏でなくても枕の下に手を入れるのは好きだった、なぜだか安心するのだ。
枕の下、もとい枕代わりのバッグの下に手を入れる。
伝わってくる感触は、ほのかな幸せではなく、痛いくらいの地の感触だった。
寝ぼける意識はその不快感に敏感に反応したのだった。

「ふぁっ!!」
急いで手を引っこ抜き、その手を地に付いて体を起こす。
風になされるがままに体をあずける草や花が、朝の挨拶をするかのように揺れている。

「あ…そっか」
そうである、ここは樹海。
右手の甲に残る不快感を左手で払う。
特に夢は見なかった、こんな状況だ、きっと大した夢じゃない、と思った。

右側を見る、幸せそうに眠る亀井と、素の顔でそのまま目を閉じたように眠る藤本と、何も考えてなさそうに眠る道重が見えた。
すぐ横で眠っている道重は、顔の右を下にしていて、バッグに圧迫される右頬の肉がやや口を押し上げている。
押し上げられた口がその圧力のせいで少し開いている、少しヨダレもたれてきている。

99 :メカ沢β:04/06/30 13:23 ID:???
まだ寝かしておいてあげたい。
一人で起きてるのがさびしい。
眠る道重をいじってみたい。

2番目と3番目の欲望が勝利した。
右足の外側と右手を地に付け左膝を立てる。
左手の人差し指を立てる。
その指先はゆっくりと道重の左頬に触れた。
優しく、丁寧に、ゆっくりと、指を頬に押し当てる。
十代のハリ、感触。
怒って頬を膨らませる道重を見るたび、一度やってみたいと思っていた。
やわらかくて、ピチピチしている。
何度か指を上下させる、そのたび指は頬に沈み、頬はそれをはねかえす。

なんていうか、こう、楽しくなってきた。
指の動くが少し乱暴に、強くなってきた。
それにまけじと頬は弾力で対抗する。
自然に笑みがこぼれる、フフ、面白い。
指を頬に少し沈めると、そのまま円を描いてみた。
指から逃げるように頬肉が動く。フフ、面白い。

それを見に来たのか、風が田中の元へ来ると止まることなく走り去り、草木を揺らした。
その音に驚く田中、まだ揺れている草の方に目をやる、でも、指はそのまま頬の上だ。

100 :メカ沢β:04/06/30 13:24 ID:???
「…んん…」
指先から声がした。
「おぉ!」
急いで指を離す田中。

道重の目元が少し動く、じっとそれを見つめる田中。
まぶたが開かれることはなく、また少し前の静寂に戻った。
今度の田中の左手は開かれていた、指をくっつけたパーのような、手刀の形。
その手刀の刃は下向きでなく、手の平の方が下を向いている。
くっつけた指を道重の頬の上に持ってきた、そして、
ポン、ポン、ポン。
頬を軽く叩いてみた。
その振動はすばやく頬に伝わり、吸収される、フフ、面白い。
弾けるような力、弾力とはこういうことを言うんだろうな、と思った。
ポン、ポン、ポン。フフ、面白い。
こんなクッション、ポン、あったら、ポン、いいのになぁ、ポン。
フフ、面白い。

「れいな…何?」
!。
声のする方を向く前に手を無言で引っ込める。
田中の目が少し見開く、無意識に見開いているのに自分でもわかるぐらい、驚いた。
道重が薄めを開けて田中を見ている、田中には少し不機嫌な感じに見えた。

「あ、さゆ、起きたの?」
演技ともなんとも言い難いテンションと抑揚、とりあえずテンパっているのだけは明らかにわかるセリフだった。
薄めのまま道重が体を起こす。
「んん」
口を開けずに発せられた道重の言葉、多分、うん、と言っているのだろう。
道重は右手で両目を覆い隠すと、そのまま擦りながら下に手を下ろす。
隠されていた目が再び開くと、先ほどよりも多く黒目が見えた。

101 :メカ沢β:04/06/30 13:25 ID:???
「れいな何かした?」
ドキッとした、そう、何かしたからだ。
「何もしてないよ」
「ホントに?」
「ホント」
「う〜ん…」
唸り声と同時に腕を組む道重。

「なんかほっぺたに当たってたような気がするんだけどなぁ」
唇を前に突き出し、ん〜とかわいらしく唸りながら考える道重。
少し頬も膨らんでいる、さっきまであれを触っていたのだ。

「ほんとにれいな何もやってないぃ?」
「ごめん、さゆにほっぺた触ったっちゃ」
「あ〜やっぱりぃ」
セリフと同時に腕が解かれた。
「さゆのほっぺ、ぷにぷにしとったと」
「も〜、ぷにぷにとかじゃなくて…」
道重がしゃべっている途中、道重の背後で音がした。
空気の動く音。
話すのを中断した道重、田中を見るとすでに音のした方を見ている。
その表情は先ほど話していた時と変わりはなかった、その目線を追うように道重も振り返る。

102 :メカ沢β:04/06/30 14:28 ID:???
そこには、ほとんど目を開けていない藤本の姿があった。
「n?」
藤本の発する、日本語にはない発音。
「ここは…?」
寝ぼけているのは明らかだった、いつもはシャキンとしている藤本の、ボッケボケな声のテンション。

「藤本さん」
田中が声をかけた、朝にはちょうどいいぐらいの軽さの声。
藤本の顔が二人の方を向く、同時に少し目が開く。
まぶたが上がった感じでなく、眉毛を上げてつられて開かれている感じ。
「あっ」
口から上を動かすことなく発した藤本の言葉。
その顔とその声に二人は思わず笑ってしまった。
笑いながら田中が言う。
「藤本さん、朝ですよ〜」
「あっ」
先ほどよりか少し寝ぼけが解消された、あっ、だった。
藤本は左手を額に当てると、ゆっくりと顔を擦りながら下げていく。
目と口のところで少し遅くなりながらも、左手は顔を滑り降りた。
いつも見る藤本の顔の90%ぐらいになっている、もう目覚めたようだ。

103 :メカ沢β:04/06/30 14:29 ID:???
「おはよう」
「あ、おはようございます」
呆気ない朝の挨拶に二人は同時の返答した。

「今起きたの?」
「あ、はいそうです。でもれいなの方が早くて…」
「でも5分前ぐらいですよ」
「ふ〜ん」
そう言いながら3回首を上下させる藤本。
その揺れのテンポのままに、藤本の顔が前方斜め下を向いた。
その先、亀井はまだ寝ている。
顔を上げる藤本、その視線は道重に、受けとめた道重の視線は田中に。

その後3人は亀井をくすぐりながら起こしたのだった。



104 :メカ沢β:04/06/30 17:41 ID:???
『飯田圭織』

飯田はうずくまっていた。
溢れ出して止まらない液体が、ぽたぽたと地面に落ちる。
その液体の事を心配してくれる相方はいない。
むしろ、その液体はその相方のせいで出ている、止まらない、その液体。
聞いたことあるような鳥の鳴き声、その泣き声は鼓膜を震わせているのに、その信号を受け止められるだけの心の余裕はない。
心の余裕、いや、頭の余裕が無かった。
何も考えられない、脳が機能しようとしない。
飯田は声も出せず、うずくまっていた。

105 :メカ沢β:04/06/30 17:49 ID:???
今日はこれで終わります。
恐らく1週間ぐらい来られないと思うので、お願いします。

106 :名無しちゃんいい子なのにね :04/06/30 21:58 ID:???
おつです。
どうした飯田・・・

107 :名無しちゃんいい子なのにね:04/07/01 04:56 ID:???
「泣き」と理解しるのに1分かかった
ん〜〜〜〜〜!!!!!

108 :名無し募集中。。。:04/07/06 03:59 ID:Gmt3SWGi
かしましい〜

109 :メカ沢β:04/07/06 10:28 ID:???
『加護亜衣・辻希美』

思ったより十分な睡眠と朝食が、二人の足を動かす。
確実に進んでいる、はずなのに、歩いても歩いても景色が変わらない。
歩を止め上を見上げると、緑に所々あく穴から澄んだ空が見える。
きっと快晴だ、空の何万分の一しか見てないにも関わらず、加護はそう確信した。
右手から繋がる相方、辻希美も上を向いている。
少し開いた口の端に、朝食に食べたおにぎりの海苔がついている。
加護が予報した快晴を告げようと辻を見ると、何よりもまず海苔を見つけた。

「ののぉ、口に海苔付いてるよ」
そう言いながらブラブラしていた左手の親指と人差し指で海苔をつまむ。
ふぇ、と言って加護の方に振り向く勢いで、海苔が取れる。
つまみとった海苔を下のジャージに擦って払う。
「あん、ありがと」
「いえいえ」
加護がジャージから視線を辻に戻すと、空を見ていた表情のまま加護を見る辻が見えた。
一瞬口を閉じ、辻が訊く。

「ホントにこっちであってんの?」

110 :メカ沢β:04/07/06 10:29 ID:???
こっち、とは、今歩いてる方角のことである。
昨日の夜、加護の提案で歩いてきた方向に足を向けて寝ることとなった。
出発するときに頭の方角に行けば昨日歩いた道を逆走することはない、という案であった。
しかし、実際には二人との寝相が悪く、バッグの位置まで変わっていたため、作戦は失敗だった。
どうしようかと悩んではいたが、加護が一本の木を指差し、この木の方に足を向けてた、と証言。
どの木も同じに見える辻にとってみれば疑いたくなる証言ではあったが、いずれにしても進まなければいけないこの状況。
まぁあいぼんは要領がいいから大丈夫、と言って納得したのだった。

「あってるって〜」
「ん〜でもなんか昨日見たような風景ばっかだよ」
「そんなんのの、どこ行ったって同じだよ」
「そうだよねぇ」

納得、以上。
二人は再び歩き始めた。


111 :メカ沢β:04/07/06 10:29 ID:???
30分は歩いただろうか。
全く代り映えのしない中歩いている二人に、ある変化が伝わってきた。
最初に気付いたのは加護だった。

「なんか聞こえない?」
「え、なんも」
「なんか、サーって」
「……あ!聞こえる!」
「でしょ、ね。どっからかなぁ」
二人は耳を済まして、色んな方向を向きながら音を集める。
今度は辻が気付いた。

「こっちじゃない?」
まさしく進行方向を指差す。
「うんうん、そうだよね、こっちだよね」
「何の音?」
「ん〜…」

どこかで聞いたことあるような…。

「川の音じゃない?」
「あ、そうだそうだ川だぁ」
「行ってみよっか」
「うん」

112 :メカ沢β:04/07/06 10:30 ID:???
先ほどより1割増しで早足になる二人。
音は少しづつ近くなってきている。
少し前方に、やや開けた空間が見える。
丈の高い草の前で止まる、その先に川はあった。
緩やかな谷の底辺に位置している川、幅は5メートルほど。
「あぁ川だぁ」
「どうするあいぼん?」
「とりあえず降りてみよっか」
「いいよ」

立ち止まった草をまたぎ、緩やかな谷をゆっくりと降りていく。
一番下まで下りたとき加護が谷を見上げてみると、高さは3メートルぐらいだった。
ふと周りを見ると、辻がいない。
その不安が形になる前に、声が聞こえた。
「あいぼ〜ん!!」
声のする方を見ると、すでに川の水を手ですくっている辻がいた。
両手ですくった水を下にこぼす。
「冷たくて気持ち〜よ〜!」


113 :メカ沢β:04/07/06 10:31 ID:???
「あ〜今行く〜」
そう言って先ほどの何十倍もひらけた空を見た。
雲一つない、快晴、予報は当たったようだ。
空を見て微笑み、辻に視線を戻すと、すくった水を前に投げている。
投げられた水は大小様々な球を作り、太陽の光を纏って光る。
今までの状態からは考えられなかった綺麗な光景、加護にはそれしか見えていない。


114 :メカ沢β:04/07/06 11:37 ID:???
自分もあの光景の中へ、加護は足を前に出した。
その足は、加護の予定着地地点までいかなかった。
その足先は加護の足の2倍はあろうかという枯木にぶつかっていたのだ。
足は前に出なかった、でも、重心はきちっと移動していた。
スローモーション、視界は美しい光景から、一面灰色に変わる。
その灰色は無数の石であると気付くのは、そのスローモーションの中でであった。
膝が曲がる、手が前に出る。
右手にバッグを持っている、右手を出すのが遅れる、体を左にひねる、全てがスローモーション。
ゆっくり流れる映像を加護は冷静に受け止めていた。
灰色の中に、違和感のある輝きが見えるものの、判別はできなかった。

ドサッ!!

聞こえる予定ではない音に、辻はとんでもない速さで振り返った。
単純な視覚情報が辻に入る、加護が倒れている。


115 :メカ沢β:04/07/06 13:05 ID:???
今日はここまで。

夏には冬が恋しくなり、冬にはやっぱり冬が一番と言う。
単に冬が好きなだけです…。
しっかし暑いなぁ。

116 :名無しちゃんいい子なのにね :04/07/06 23:47 ID:???
乙!

冬は寒いし自転車乗れないし、嫌。
でも白一色になった田んぼとか見てると、きれいだと思う。

117 :メカ沢β:04/07/08 08:15 ID:FG/rgfDS
「あいぼん!」
叫ぶが早いか、加護の元に駆け寄った。
心配ではある、けれど単にコケただけ、水への未練も少し心に残っている。
しかし、加護の倒れている所まで来た時、水のことなど完全に吹っ飛んでしまった。
生々しく、それは嘘のように鮮やかな血が広がっている。
加護の顔が苦痛に歪んでいる、同じように辻の顔も歪んでいる。
「あいぼん!!」
加護の前にしゃがむと血のことなんか気にせず抱き上げた。
左腕から血が滴り落ちる。


118 :メカ沢β:04/07/08 08:16 ID:???
「あいぼん!!」
「ん〜…」
食いしばられた口から漏れる悲痛な声、閉じていた目が薄く開き辻を見る。
今にも泣き出しそうな加護の目、普段ふざけている時の目とは全く別物であった。
いまだに左腕からの出血は続いている。
加護のコケた位置を見てみると、侵入者を殺すためのトラップのように、割れたビンやその破片が散らばっていた。
状況を把握した辻、ただ、把握したからといってそれを処理できるほど冷静ではなかった。
抱き上げた手に生暖かい感触、加護の血が辻のジャージに流れてきた。
その気持ち悪さで我にかえり、加護を見る、口が震えながらかすかに動く。

「…のの…」
「あいぼん!!」
「…助け…て……」
助けて、そうだ、助けなければ。


119 :メカ沢β:04/07/08 08:17 ID:???
誰かが辻に指示しているかのように、辻の行動は見事だった。
ジャージを脱がせる、出血は左の上腕。
腕に残るガラスの破片をつまんで捨てる。
生暖かい感触にも慣れていた、慣れていたというよりも気にしていられる神経を働かせている暇はない。
加護のバッグを引き寄せ開ける、中から毛布を取り出し患部に当てる。
毛布を当てた瞬間加護の顔が少し歪んだが、辻は淡々と応急処置をこなしていく。

習った事もない、聞いた事もない、考えた事もない、応急処置。
辻は考える間もなく処置をこなしていく、それが正しいのかどうか、そんなことよりも、加護を助けたかった。

加護の顔色が段々と青ざめていく。
出血が止まる様子はない。
毛布がじわじわと赤く染色されていく。
それは加護の不安と共に、辻の不安が広がっていく様にも見えた。


120 :メカ沢β:04/07/08 08:18 ID:???
これじゃ駄目だ、何が駄目なのか、どう駄目なのか、わからない。
でも、このままじゃ加護は助からない。
どうすれば…どうしたら…。
毛布を押さえる力が強くなる、比例して加護の顔が歪んでいくも辻は見ていなかった。
ただひたすら考えていた。
国語も数学も英語も、まともにできないけれど。
それでも加護を助けたい、その一心で頭をフル回転させる。

神の導きのように正確に処置をしてきた辻だが、その導きが徐々に不安に侵食されていく。
加護が死んだら、いや助けるんだ、でも、もし助からなかったら…。
全身の力がわずかながらに抜けていく感じがする。
絶望が希望を食い、助けたい力までも食っていく。

なぜこんなことに…。


121 :メカ沢β:04/07/08 08:19 ID:???
辻はこの森に来た最初の頃を思い出していた。

あの時だってあいぼんがいたから頑張れた、そうやって今ここにいるんだ。
なのになんで、あいぼんがこんなことに…。
こんなことになるなんて、あの時は考えられなかった。
皆を探そうって、それで一歩が踏み出せたのに…。

涙がこみ上げてくる、毛布を押さえる力もそれに混ざって抜けていく。
思考能力は思い出の再生に費やされていた、もうこれ以上何もできない。
これ以上加護を救う手立ては、ない。
辻の過去の再生は続いていた。
その再生こそが、神の最後の導きであった。
その記憶の中の希望を、辻は見つけた。

「そうだ…裁縫道具…」




122 :メカ沢β:04/07/08 10:12 ID:???
『飯田圭織』

自分が無力なのか…それとも…。
愚にもつかない疑問、事態に焦点の合わない疑問ばかりが浮かぶ。
あの発言、バトロワみたい、あの時からなんとなく気付いてた。
疑っていたわけじゃない、いや、でも、イヤな予感はしていた。
信じてた、口では簡単に言える、いや、心にもそうやってはりぼてにそんなことを貼り付けたのかもしれない。
内心は…。

そうやって考えていく内に、矢口の裏切りと自身の虚偽の心が、これでもかというぐらいに具現化していく気がする。
嘘に嘘が積み重なり、真実に真実が積み重なる。
矢口を疑う心、それを否定する心、矢口のいない現状、自分一人だけの状況。


123 :メカ沢β:04/07/08 10:12 ID:???
どんな人間にも醜い心はある、なにかの本で読んだ覚えのある言葉。
頭ではわかっていた、それが普通だろうし、自分にもあるだろうと。
ただ、実際にそれを目の前につきつけられた時、あまりの醜さに目を背けてしまった。
本当は何にもわかっていなかったのだ。
本心に見映えだけよい愛を貼り付けて、いつのまにかそれが本心だと思い込みだして。
己の醜い部分に向き合うこともせず、ひたすら見ないふりをしてきたのだ。
何がメンバー愛だ、皆を愛してるだ、ただそれを貼り付けていただけじゃないか。
外から貼り付けてるだけ、内から滲み出てきたもんじゃない。
自分は、ただただ、嘘ばっかりついてきたんだ…。
その空間への突然の訪問者にも気付かず、飯田はただ泣いていた。


124 :メカ沢β:04/07/08 11:57 ID:???
飯田が寝返る、バッグから頭がはずれ大地を枕にした。
その寝心地の悪さに目を覚ます。
草がチクチク頬を刺す、その感触に瞼は一気に開いた。
写真で見れば清々しい光景、ただその中にいる飯田は少しもそんなことは思わない。
そして、すぐに覚醒したその意識は異変にも気付いた。

矢口が、いない。

バッグは飯田が枕にしていたそれだけ。
昨日バッグに物が入ってると寝心地が悪いからと中身を全て出したはず。
食料、水、ナイフ、軍手、マッチ、矢口のカバンに入っていた懐中電灯も、ない。
手元には空のバッグと毛布。

「…矢口」
ボソッと、ほとんど無意識に声が出た。
その声が今必要な意識を引っ張り出してきた。


125 :メカ沢β:04/07/08 11:58 ID:???
「矢口!!」
バッグから視線を外し、360度辺りを見回す。
何度も何度も、何度も何度も見回してみても、いない。
その姿を嘲笑うかのような風の音、見下すような太陽の光。
いてもたっても、いられなくなった。
見える所全ては駆け回った、瞬きも惜しんで矢口を探す。
「矢口ー!!!!!」
必死に叫ぶ、腹の底から声を出す、なんて気にしていられない。
どんなに凝視しようと矢口はいない、その度に浮かぶ言葉。

なんで…なんで…なんで…。

その言葉は浮かぶたび、不安で走る足が速くなる。
「矢口ー!!!!!」
叫ぶ力は、涙によってその威力をそがれている。
そして、全てを悟った。

126 :メカ沢β:04/07/08 11:59 ID:???


矢口は、私を、裏切ったんだ…。




127 :メカ沢β:04/07/08 12:00 ID:???
トボトボとバッグの元に歩み寄る。
バッグにたどり着く前に崩れ落ちる、そしてうずくまり、泣いた。
矢口がいないから?
一人取り残されたから?
裏切られたから?
何が理由かわからない、全てかもしれない。
理由がなんであっても、この涙は次から溢れ出てくる。
次に何をしようか、そんなこと考えられる状態ではない、ただひたすら…ひたすら涙が出てくる。
風がなびかせる葉の音の中に、嗚咽だけが聞こえていた。

ガサッ。
草が無理に分けられた音が聞こえるも気にせず泣いている飯田。
その光景に、その訪問者は思わず声を漏らした。
「飯田…さん?」
その声に飯田は反応した、体がピクッと動いた後、ゆっくりと顔をそちらに向ける。
飯田の目に映ったのは…。

128 :メカ沢β:04/07/08 12:08 ID:???
今日はここまで。

日本語も一人前に習得してないのに、幼い頃から英語なんて勉強してどうするんでしょうね。
結局日本語も英語もまともに話せない人間が出来てしまうっていうのに。
もっと日本語を、言葉を知らないといけないのではないかと、これを書きながら思いました。

129 :名無しちゃんいい子なのにね:04/07/08 14:53 ID:???
本編も面白いがメカ沢βさんの言葉も面白い 物語の辻ちゃんガンガレ!

>>127のクダリなどエヴァ全盛期を思いだしたよ
続き楽しみにしてます

130 :名無しちゃんいい子なのにね:04/07/10 02:28 ID:???
また此処へ戻ってきた

131 :名無しちゃんいい子なのにね:04/07/10 07:45 ID:???
状況描写が少々稚拙だ
変に修飾に凝りすぎ。
でもがんばってね

132 :メカ沢β:04/07/11 11:30 ID:???
『吉澤ひとみ・石川梨華』

「飯田…さん?」
吉澤の肩越しにそれを見た石川が、その空間にはよく響く声で言った。
その声に反応したらしく、それはこちらにゆっくりと顔を向ける。
顔を向ける前にわかっていた、それにはまるで生気が無いことに。
予感が見事に的中したその顔は、読唇術でも使わないとわからないぐらいの声を出した。
「…よ……しー……い…しかわ……」
「飯田さん!!」

吉澤が急いで飯田の元に駆け寄る、飯田の横にしゃがむと肩に手を当てる。
あまりの気の憔悴の仕方に、石川は一歩も動けなかった。
その雰囲気からは考えられないような速さで、飯田は吉澤に抱きつく。
体勢が崩れ、両手を地面に付いて倒れるのを防ぐ吉澤の胸に顔を埋め、飯田は嗚咽を漏らした。
一瞬のことに戸惑いながらも、優しく髪に手を当て抱きしめる吉澤。
その刹那の行動に我を取り戻した石川、二人の元に歩み寄る。
飯田の横にしゃがみ、背中に手を当てた石川が言う。

「飯田さん、何が…」
「梨華ちゃん!」
話している途中で吉澤が名を叫ぶ。
吉澤を見ると、僅かに目を細め、首を横に振っている。
吉澤の言わんとしていることを理解した石川は、優しく背中をさすることにした。

133 :メカ沢β:04/07/11 11:32 ID:???
しばらくこうすること、10分くらい。
飯田の嗚咽が聞こえなくなったのを見計らって、吉澤が口を開く。

「飯田さん…」
優しく響くその声に、ゆっくりと顔を上げる。
真っ赤に目を腫らし、今までの時間が無かったかのように大きな水滴が目からこぼれる。
さする手を止め、石川が話し出す。

「飯田さん…何があったんですか?」

何があったのか、正直、わかっていた。
吉澤が飯田を抱きしめていた間、周りを見回せば、全てが。
そして、その全てを飯田がわかっていないのだということも。

飯田が吉澤から離れ、対峙する様に座りこんだ。
ペタン、と、女の子座りと言われる座り方。
吉澤には、普段は大人っぽい飯田からは考えられないほど、か弱く、華奢に見えた。
鼻をすすった飯田が、静かに口を開いた。

134 :メカ沢β:04/07/11 11:33 ID:???
「矢口が……いなくなったの…」
風が3人の間を遊ぶように通り抜けていく、そんな風を受け入れるように草がサワサワと揺れる。
「私の…食料…も水……も…全部……全部持って…ちゃって……」
溢れるというより、何かに押し出されているかのように出てくる涙を手の甲で拭い、飯田が続ける。
「起きてみたら……矢口が…」
嗚咽で詰まる語間とは考えにくい沈黙が流れる。
飯田の喉が何かを飲み込んだかのように動き、そして沈黙を破った。

「矢口が……矢口が私を…………うらぎっ…」
「飯田さん!!」

その言葉を遮るように、石川が叫んだ。
虚ろな目のまま、石川を向く飯田。
その目に映るのは、今にも泣き出しそうな石川だった。
一瞬口をへの字にして涙をこらえ、石川が口を開く。

「飯田さん…その言葉は言わないで下さい」
思いもよらない言葉に、飯田はたじろいだ。
飯田にはわからなかった、その言葉。
飯田のそれを察したのか、石川が諭すように言う。

135 :メカ沢β:04/07/11 11:34 ID:???
「矢口さんは…裏切ったわけじゃないと思います」
今まで考えてきたことが全て吹き飛ぶような、石川の言葉。
まだ何がなんだかわからない、飯田の目から大粒の涙が流れた。
その涙は、ずっと待っていたその言葉、矢口は裏切ったわけじゃない、それを待っていたようだった。
石川が続ける。
「飯田さんが泣いてる間に、見回してみたら、わかったんです」
「矢口さんは決して飯田さんを裏切ったんじゃないんですよ」
吉澤が続けた。

「飯田さんのものを全部持っていったのは、矢口さんが一人で生き残るためじゃなくて、多分…」




136 :メカ沢β:04/07/11 11:43 ID:???
今日はここまでということで。

>>129ありがとうございます
言葉が面白いと言うのがどういうことかちょっとわからないのですが、褒め言葉だと思っています。
>>130ありがとうございます
おかえりなさいませ
>>131ありがとうございます
まだまだ未熟ではありますが、これからもよろしくお願いします。

スピード違反の取締りのために道路脇の草むらに隠れているパトカーがいました。
スピード違反した車を見つけるとサイレンを鳴らしてでてくる仕組みです。
初めからわかる所にいれば、違反者が減ると思うんですがね。
防犯より検挙の方が仕事が具体化されてる分、評価されやすいのはわかるんですけどね。
何かおかしくないですか?

137 :メカ沢β:04/07/15 12:33 ID:dO0sn4qx

『矢口真里』

足取りは出発時の8割くらいに遅くなった。
やはり二人分の荷物は、重い。
体も心も休息を願っている、目の前に腰掛けるにはちょうどいい木の根。
その木の根に向かって、距離を足早に縮める。
落とすスピードでバッグを下ろし、木の根に座った。
ふと、一人であることを再確認する。

138 :メカ沢β:04/07/15 12:33 ID:???
見当違いに早く起きてしまった今朝。
用を足しに休息の地を離れてみる。
十数メートルぐらい離れただろうか、その時のことを今でも神に感謝する。

木の隙間を光が通り過ぎていくのが見えた。
その光は強く、そしてとても人工的な光。
尿意も忘れ、その光に興味を抱いてしまった。

あれは何だろう?
単純で、しかし、強大な好奇心。
好奇心なんて言ってられる状況にないのはわかっていた。
でも、その好奇心に希望が乗っかったとしたら…。
もしかしたら……。

急いで光の見えた場所に向かった。
起きたばかりなのに、尿意をもよおしているのに。
どれくらい走っただろう、100メートルぐらいだろうか。

希望が、現実となった。



139 :メカ沢β:04/07/15 12:35 ID:???
そこには樹海では見なかった、灰色のアスファルトがあったのだ。
道路手前の5メートル、足が止まった。
この時の妙な冷静さにも、感謝している。

このまま道路に出てしまったら、圭織の所に戻れなくなるかもしれない。
それよりも今この位置から180度向き直し、圭織の元に行った方がよいのではないだろうか。

そう思うが早いか、もうすでに視界は樹海の方に向き直っていた。

やっと出られる。
さっさと圭織に教えて、こんな所から早く脱出しよう。

伝えたい気持ちを抑えきれず、足が走り出した。
聞こえもしないであろう距離にも関わらず、つい叫んでしまう。

「圭織ー!!」
興奮と運動で息も上がる。
「脱出できるよー!!皆待ってるよー!!」
ふと、己の言葉に、足も興奮も止まった。

皆…。
そうだ、皆はまだ脱出できてないかもしれない。
何もかも偶然、偶然であの道路を見つけたのだ。
たまたまスタートしてからこの道路へ最短距離を歩き、たまたま道路に向かって用を足しに行き、たまたま車が通り、たまたまヘッドライトを見た。
たまたまスタートした場所があそこであって、たまたま車がヘッドライトが見えるように走ってきて、たまたま私の身長から見えた。
こんな偶然が皆にも起こっているわけないだろう。
とするなら…。

140 :メカ沢β:04/07/15 12:36 ID:???
先ほどの興奮も冷め、止まった位置から一歩も動かない。
顎に手を当て、下を向き、考え込んでしまった。

自分達は二十歳を越える年長組だ、知恵も度胸も他のメンバーよりかはあるだろう。
まだ中学生のメンバーだっている。
モーニング娘。のメンバーとして、また年長者として、見過ごすわけにはいかない。
もし自分が中学生の時にこんな目に遭ったら…。

寒気がした、ビクッと体が震える。

無理かもしれない、諦めてしまうかもしれない。
ならば、助けなきゃ…。

顎に手を当てたまま前を向く。
その方向に飯田はいる、しかし、遮るように、また自由に、木々が立ちはだかる。
再び下を向いた。

また樹海を歩き回ってメンバーを見つけたとしても、そこまで行く道のりを全て覚えていくのは無理だろう。
助ける、とは言っても、実際に会ってから脱出できるとは限らない。
でも…。
でも、メンバーを見殺しにするわけにはいかない。
たとえ探しまわって会えなくても、今このまま脱出するより何倍もマシだ。
でも食料はあと一日分しか残っていない。
…。

141 :メカ沢β:04/07/15 12:37 ID:???
一人で……一人で行こう。
圭織には脱出してもらって、自分は探しに行こう。
自分だってそりゃ助かりたいけど…でも、でもやっぱり圭織を危険な目に遭わせたくない。
一人で行こう、圭織の分の荷物をもらって、出会ったメンバーにそれを分けて。

一人で考えすぎるなよ、どこからか聞こえた気がした。
昔、保田に言われた言葉。
心の中で大事にしまっておいたその言葉が、今になって突然出てきた。

そうか、圭織にこのことを言わなければ…。
いや、それは駄目だ。
きっと、いや、絶対、自分が探しに行くと言うだろう。
それをどんなに説得しても聞いてくれないだろうし、よしんば説得できたとしても互いに後味が悪い。
言っちゃ駄目だ、じゃあどうやって圭織だけ脱出してもらう?
手紙を書く道具はない、じゃあどうすれば…。
…。

142 :メカ沢β:04/07/15 13:19 ID:???
矢印だ。
矢印を地面に書いておこう、大体の距離と脱出できるという事も一緒に。
そうだ、それでいこう!!

結論が出た。
晴れやかだが少し陰があるような顔で前を向くと、胸を張って歩き出した。

飯田はまだ寝ていた。
言いたい、すぐにでも脱出できることを大きな声で叫びたい。
でもそれはできない、自分のため、飯田のため、皆のため。
忍び足で自分のバッグの元に行くと、バッグに物を詰める。
昨日寝心地を理由に中身を全て出していた、なんて幸運な偶然だろうか。
二人分の荷物を詰めるとカバンはパンパンに膨れ上がっていた。
二日分と一日分+一日分では量が全く違う。
きっと一日分ではなく、1,5日分ぐらいなのだろう。
安らかに眠る飯田の顔を見て、ふと思いついた。
目覚めの一杯、と、飯田のカバンの横に小さなペットボトルを一本。

これでカバンがしまる、と。



143 :メカ沢β:04/07/15 14:23 ID:???
次は矢印を地面に書く。
手頃な枝を見つけ、起こさないように、起こさないように。
時々唸る風の音、朝からバカみたいに元気な鳥の泣き声にビクビクしながら、飯田が眠っていることを確認して作業を進めた。
そして、完成した。
カバンを静かに持ち上げ、ソロリソロリと飯田を背に歩き出す。
その休息の空間から出るにはあと一歩、足が止まり顔を振り向かせる。
やや寝心地悪そうな寝顔の飯田。
手を伸ばせばいつだって手に入れられる幸せ、それを手で払って今出発しようとしている。
先程の決心が僅かに小さくなった気がする。
そんなことが、許されるわけない。

「圭織…行ってくるね………元気でね……」

涙に耐え、決心の崩れにも耐え、矢口は歩を進め出したのだった。




144 :メカ沢β:04/07/15 14:28 ID:???
今日はここまで。

『野球界の伝統を守る』とか何とか言ってる人がいますね。
お前の家は全部畳かい? 厳粛に日本食だけ食べてるのかい?
トイレは和式なのかい? カタカナ語は使ってないのかい?
生半可に『伝統』という言葉を使ってほしくないものです。
何より、他球団の4番ばかり集めて『伝統』ですからね……簡単に言えば支離滅裂というやつです。

145 :名無しちゃんいい子なのにね :04/07/15 20:28 ID:???
矢口バカだな・・・
でもよかった

>>144
同意です

146 :名無しちゃんいい子なのにね:04/07/16 06:23 ID:???
[感想]サイリウムで「矢」の字作らなくて良かったな(爆

「なっちイラネは総意」をどう思います?なっちが居ることによりメンバー全員が気を使ってしまう、この物語になっちが居たらまた話が変わっていたことでしょう。

147 :メカ沢β:04/07/16 11:59 ID:UPzx0uZ3
『飯田圭織・吉澤ひとみ・石川梨華』

「多分…残ってるメンバーを探しに行ったんだと思います…」
「そん…な……」

相変わらず場違いな風がときたま3人の間ををすり抜けていく。
飯田が泣きそうな顔をした。
今まで泣いていた時の顔とは違う、驚愕の混ざる泣き顔。
石川がゆっくりと立ち上がり、地面を指差す。

「飯田さん、これ…見てください」
飯田は震えながら石川を見て、ゆっくりと指差す方を見る。
そこには、何の変哲もないと思っていた地面、でも、何か違う。
「飯田さん、ほら、立って」
吉澤は飯田の腕を持ちながら立ち上がる、遅れて飯田が立ち上がった。
何かに気付いた仕草をした後、飯田の両手が顔に被さる、指の隙間からそれを見る。
そこに描かれていたのは矢印、その下に100m、そして…。

148 :メカ沢β:04/07/16 12:00 ID:???
「…圭織……LOVE……」
「……矢口さんは…裏切ってなんかいなかったんです」
崩れそうになる飯田に後ろから手を回して肩を支える吉澤。

「きっと…この先に出口を見つけて…それで…」
「なんで…なんで私に…言ってくれなかっ…」
感情が、涙が、言葉を遮る。
現状を受け止めるので精一杯の飯田。
嗚咽を発する飯田に、肩を抱きながら吉澤が言う。

「それは…それはきっと飯田さんに…生きて欲しかったからだと…」
飯田の肩がビクッと震え、吉澤の言葉は止まった。
石川が静かに、ゆっくりと、話し始めた。

「きっと出口を見つけて…飯田さんに知らせようとしたんだと思います。でも…まだメンバーが残ってるかもしれない。
助けに行きたい…でもせっかく出口を見つけたのに…もしこれを逃したら二度と出られないかもしれない。
だからせめて……せめて飯田さんだけでもって…こうやって矢印を描いて…」



149 :メカ沢β:04/07/16 12:02 ID:???
涙がこぼれそうな石川、吉澤が助け舟を出す。

「飯田さんに相談したら……きっと飯田さんが行くって言うとわかってたんだと思います。だからこういう形で…」
「じゃあ……矢口には…もし…かしたら…もう…会えないかもしれないの?」

石川はすでに泣いていた、もう話せる状態にはなかった。

「いや…そんなことないと思います。矢口さんならきっと…」
「私…矢口を探しに行く!」


150 :メカ沢β:04/07/16 12:03 ID:???
吉澤を振り払うかのように体を振り向かせ、バッグを取ろうとする飯田。
飯田の目線の先に、小さなペットボトルが映った。
飯田の動きが止まった。
色に例えるなら綺麗とは言えない赤色のような、得体の知れない気が漂う。
落ち着いた声で、しかし、真っ直ぐな怒りを込めて、吉澤が叫ぶ。

「この矢印も、そのペットボトルも…矢口さんの優しさを踏みにじるつもりですか!!」
「でもじっとしてられないじゃ…」
「飯田さん!!!」


151 :メカ沢β:04/07/16 12:33 ID:???
泣きじゃくっている石川も、バッグに手をかけている飯田も、同時に吉澤の方を向いた。
吉澤の目が、濡れていた。

「矢口さんはきっと…いや絶対、探してくれることなんか望んでませんよ!!飯田さんに脱出してほしいから……生きてて欲しいから……だから…」

こらえ切れない感情を言葉に込めて、また涙にして、吉澤は泣いた。
口をつぐんでこらえても流れてくる涙。
それでも、吉澤は、飯田を見ていた。

飯田の涙が、止まった。

吉澤と目を合わせながら、鼻から息を吸い込んで、飯田が口を開く。
「ごめんよっしー……」
その言葉に、吉澤は下を向き嗚咽を漏らした。
飯田の中で何かが吹っ切れた、シャンとした表情で吉澤に近寄る。
そのまま近寄ると、眠る我が子を抱く母親のように、優しく吉澤を抱きしめた。

「そう……だよね。矢口は……大丈夫だよ…ね」

飯田の肩に乗る頭がコクンと頷く。

「出よう……矢口のためにも、さ」

先程よりも大きく、少し笑みをもらして、吉澤は頷いた。




152 :メカ沢β:04/07/16 12:44 ID:???
今日はここまで。

>>145レスありがとうございます。
野球にさして興味の無い私でさえそう思っているわけですから、野球ファンの人たちはどうなんでしょうね。
>>146レスありがとうございます。
なっちがいたら人数的な問題はさておき、たしかに話は変わっていたでしょうね。
子どもっぽい所も大人っぽい所も含めてなっちだと思っているので、それに周りが困惑することがあっても不要だとは思わないですね。

拉致家族の問題でジェンキンス氏のこれからが問題になっています。
日本はアメリカに、日本人の家族がいるんだから許してよ、と言ってますが、
アメリカは日本に、それは関係ないだろ、脱走兵は脱走兵だ、と言ってます。
もしアメリカが日本の意見を飲むならば、世界中の脱走兵は日本人と結婚してしまうんでしょうね。
実に難しい問題です、誰もが幸せになれる方法はないのでしょうか?

153 :名無し募集中。。。:04/07/17 13:15 ID:???
>>152
なっちの事、ごめんなさいネ。別に嫌いな訳じゃないんですよ。只、先週のハロモニが良かったからそう思っただけです。

ジェンキンスの事、ん〜(-.-;)政府はひとみんを幸せにする事で必死ですね、それでイイと思う。

154 :メカ沢β:04/07/21 10:37 ID:0QFWFQIS
『加護亜衣・辻希美』

「あいぼん!!ちょっと待ってて!!」
左前腕を震える右手でつかむ加護、その手を離させて毛布の圧迫をさせる。
毛布を握る力も、明らかに弱い。
震えと力の無さに毛布がずれていく、辻が加護の右手を掴み、その手ごと毛布を元に位置に戻す。
加護の右手を握り締め、辻が叫ぶ。

「今裁縫道具持ってくるから!!その間だけ抑えてて!!お願い!!」
加護が力無く頷いた。

辻は急いで自分のバッグを取りに行く。
清らかに流れる川の音も、甲高く鳴く鳥の声も、辻には聞こえない。
バッグをかっさらうと、加護の元に戻る。
死力を振り搾るかのように右手に力を込める加護。

「あいぼん、あとちょっとだから!!頑張って!!」
加護の右手の拳が小さくなる。
それを確認し、バッグを開ける。
動物の勘、一発で裁縫道具を見つけた。
ケースを開け短針を出す、糸は一番長そうな白。
血が乾きパリパリの手で針に糸を通す。

155 :メカ沢β:04/07/21 10:38 ID:???
両手が震える、早く、早く。
焦れば焦るほど、指先が笑う。
辻は自分の指に怒りを感じた。
何がそんなに面白い、そんなことより、早く、早く。

加護を見る、さっきよりも青白い顔、血の広がる毛布。
「あいぼん!!あいぼん!!」

必死に加護を呼ぶ、青白い顔が辻に向く。
涙に濡れる目、青紫の唇、痛みに曲がる眉。
その顔が、とても薄っすらと、笑った。
その笑顔の種類は、今までに見たことのないものだった。
面白い、楽しい、おかしい、どれとも違う。
震える唇が開く、そのまま口を動かさない。
そこから、とても弱々しく、そして、とても特殊な優しさのある声が出た。

「……の…の…」



156 :メカ沢β:04/07/21 10:39 ID:???
川の音、鳥の声、風の音、木々の音。
それらのどの音よりも小さく響いたはずのその声は、辻にはとても鮮明に聞こえた。

その刹那、辻の指の震えが取れた。
針を見る。
糸を見る。
何かに操られているかのように、その二つが交差した。
それは当たり前の出来事のように、糸が通った。
指は震えない、糸先を結ぶ。
加護を見る、笑ってくれている気がする。
右手に針を持ち、左手で毛布を取る。
出血は未だ続いているものの、先程よりは落ち着いている。
「あいぼん、ちょっと我慢してね」
先程までの辻からは想像できないほど、落ち着き払った声。
出血の止まらない一番深く、大きい傷口の縫合。
辻の手は全く震えていなかった。
淡々と、心ここにあらずと、縫合を行う。

それは見事としか言い様のないぐらいの、完璧な手つき。
ただ、加護の目は、開いてはいなかった。

157 :メカ沢β:04/07/21 10:41 ID:???
最後の一箇所に針を通し、玉止め。
縫合が、終わった。
その瞬間、辻の体が震え始める。
そして、加護の瞳が閉じていることを知った。

「あいぼん!!ねぇあいぼん!!」
いくら声をかけようと、加護は動かない。
加護とは対照的に、決壊したダムの様に、涙が流れる辻。
もう縫合している時のことなんか覚えていない。
ただただ加護を助けたくて、その一心だけで。

「あいぼん!!もう終わったよ!!目ぇ開けてよ!!」
加護の青白い顔、恐ろしいほどに、綺麗なほどに、青白い。
血の気も、生気も、笑顔も、加護にはなかった。
「あいぼん!!あいぼん!!!!!」
声を大きくしても、肩を揺らしてみても、加護は動かされるまま。
辻の揺らす力は、加護をすり抜け、地面に吸収されていく。
叫ぶ力も、揺らす力も、全て吸収される。

158 :メカ沢β:04/07/21 10:42 ID:???
「ねぇあいぼん……縫うのね……うまくいったんだよ…………ねぇあいぼん……笑ってよ……
のん…頑張ったんだよ………誉めてよ………いつもみたいにさ……えらいねって…………ねぇ…あい…ぼ……」

涙のようにか弱く、こぼれる言葉。
その言葉でさえ、加護をすり抜けていく。
加護は冷たく、静かだった。



それは、嘘のように、静かだった。





159 :メカ沢β:04/07/21 12:10 ID:???
『飯田圭織・吉澤ひとみ・石川梨華』

3人は地面の示す通りに進んでいた、矢口の見つけた希望の先。
己の勝利を捨て、友を思い、救うため、矢口は一人で行ってしまったのだ。

もっとも、3人は誰一人話していなかった。

喜ぶべき事態が待っている、けれど、引っ張られるような感情が湧き上がってくる。
いいのだろうか。
彼女のためとはいえ、自己を犠牲にした彼女を置いて出るなんて。

素直に喜べない、という気持ちが3人の共通する所だった。

このまま簡単に脱出しては、脱出後、自分が自分を許さないだろう。
矢口の行動は完全な献身である。
誰が為に鐘は鳴る、矢口の鳴らす鐘の音は自分達のために鳴らされた音。
その音を聞いて、ただ感謝するだけでいいのだろうか。

160 :メカ沢β:04/07/21 12:11 ID:???
一様な自問自答をする3人の前にやや異質な空間が見えた。
それはこの非日常からの脱出であり、矢口から託された希望。

「あっ!!道路」
「矢口さん…」

誰ともなしに道路の前で足が止まる。
あと数歩で悪夢が終わる。
夢から覚める寸前のような、妙な気持ち。
覚めるべきか、それとも…。

最初に歩き出したのは吉澤だった。
しっかりと踏みしめる様に歩き、あと一歩で止まる。
180度振りかえると、実に綺麗なきょうつけをした。
鼻と口から同時に息を吸い込むと、一瞬止めて、叫ぶ。

「矢口さん!!!ありがとうございます!!」



161 :メカ沢β:04/07/21 12:12 ID:???
お辞儀をしながら叫ぶ吉澤を、呆然と見る飯田と石川。
顔を上げた吉澤が、へへっ、と笑うと、また180度振りかえった。
そして、大きく一歩を踏み出した。
日常の上で吉澤が二人を見る、また、へへっ、と笑う。
すると、石川が歩き出した。
吉澤を模倣するように歩き、模倣する様に振り向き、模倣するように息を吸った。

「矢口さん!!ありがとうございます!!」
石川の顔が微笑んでいる。
堂々と振り向き、少し屈んだ後、両足でジャンプする。
その足は、固いアスファルトの上に着地した。

飯田は依然、動けなかった。
同様の自問自答、しかし、飯田の場合は、重さが違う。
矢口との付き合いは、モーニング娘。の中でも、悪夢に葬り込まれた時でも、一番長い。
矢口の残していった優しさいっぱいのペットボトルを握り締め、飯田は俯いた。

これで、いいのだろうか…。

「多分…」
吉澤の芯のある声に、飯田は顔を上げる。

162 :メカ沢β:04/07/21 12:12 ID:???
「多分、飯田さんが脱出しなかったら…一番許してくれないのは矢口さんだと思います」

飯田の中で無限にループしていた問題の輪が、切れた気がした。
そうだった、誰よりも脱出を願ってくれていたのは、矢口だったのだ。
飯田の口元が綻んだ。
「飯田さん…」
石川の言葉と同時に、飯田は歩き始めた。
前の二人に習うように、止まる。
やや綺麗さ加減を落とした髪が広がるように振り返る。
深呼吸するように、ゆっくりと、息を吸い込み、叫んだ。

「矢口ー!!ありがとうねー!!!」

声は真っ直ぐ飛んで木に当たり、拡散していく。
その中で声の響くが途切れても、気持ちは矢口まで届くだろう、飯田は思った。
5秒ほど森の中を眺め、振り返った顔は笑顔だった。

午後1時4分。
飯田圭織脱出。
吉澤ひとみ脱出。
石川梨華脱出。


163 :メカ沢β:04/07/21 12:20 ID:???
今日はここまで。

>>153ありがとうございます。
いえいえ、何か謝らせるような事を言ったならこちらこそ謝ります、スイマセン。

娘。小説を結構読んでいます。
おすすめのがありましたら、ぜひ教えてください。

164 :名無しちゃんいい子なのにね:04/07/21 15:13 ID:???
>>163
ぉっカレーです。
「脱出」に何か深い意味が隠されてるような、いないような。今まで外的攻撃や妨害が無いのが不気味ですね。続き楽しみにしてます。

165 :メカ沢β:04/07/23 17:36 ID:???
http://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/snow/1090570486/の方に書くことにしました。
鳩板には連投規制等があって書きにくいのも一つ、専用があるなら専用を使うのが筋だろうというのも一つ。
誤字脱字、手紙のズレ等は修正してあります。

166 :名無しちゃんいい子なのにね:04/12/15 22:54:08 ID:tyQYy7Ed
良スレage

167 :名無しちゃんいい子なのにね:05/02/08 22:58:21 ID:0vCLjc+h
ああごめん
サルイバルスレかと思っちゃった

168 :名無しちゃんいい子なのにね:05/02/09 22:43:18 ID:gdsKAwnq
ああごめん
サバヨミスレかと思っちゃった

169 :名無しちゃんいい子なのにね:05/02/22 20:32:04 ID:pu0ep3bv
ああごめん
サルイルノ?スレかと思っちゃった

170 :名無しちゃんいい子なのにね:05/03/03 21:30:26 ID:9FrPA/dC
松浦&慶太の交際なんか
モーヲタ的には何年も前から周知の超既出事項。

http://www.geocities.jp/lalalalamarinjp/m.htm

HEY3出演時の松浦&慶太のラブラブ・アイコンタクトなどなど。

むしろ最近は松浦が鬱モードに突入しているので
慶太と別れた、もしくは中絶説まで出てる。
この辺は信憑性は低いが。

では、何故こんなヲタなら誰でも知っていることが
いまさら週刊誌の記事になったかというと
松浦を一度落とす事務所の戦略、という見方がヲタ内では有力。
あの事務所はスキャンダルを出すなどで評判を悪くし一度陥れたところで、次のアクションを起こす。
そうすることで話題つくりにもなり、所属タレント本人にも言う事を聞かせやすいから。
前回、無理矢理に娘。入りさせられた藤本も、加入直前にスキャンダルが出ている。


「松浦モーニング娘。入り」が次のニュースになるだろうと予想されている。

171 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/08/03(水) 10:17:37 ID:VnlOnbze0


            , -'"´  ̄`丶、_
           ,.∩         `ヽ
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         |ハ ,ニ、   ,. - 、 | | | l |
         | ハ ィハ     ,二ヽ. | | | | | 同じ板にコピペするとそのままだけど、
         | | | じ'   |トJ〉  /)} l | 違う板にコピペすると鬼のような怖い顔
         | ハ  、'_,   ̄,, 厶イ川| に変わる摩訶不思議な佳子様コピペ。
         l l /\    .. イV\川 |
         ,' l l ,イ `l ̄´ /   /ヽl l
         l | l ハ  `メ、    〃  ヽヽ、__ノ
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172 :名無しちゃんいい子なのにね:2006/03/05(日) 18:24:25 ID:bsNMuGXk0

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173 :名無しちゃんいい子なのにね:2006/05/16(火) 18:06:28 ID:YkoqvBXz0

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  ヽ、  //   /       ヽ   ____..--- 、  ハ
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174 :名無しちゃんいい子なのにね:2006/10/10(火) 08:38:13 ID:/rPWF+4jO
【mixi】アタック25で不正をして優勝賞金をゲット?
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/quiz/1159715625/

175 :名無しちゃんいい子なのにね:2006/12/18(月) 12:17:22 ID:???0
ノリ’ー’)<ャョャッョ♪ャョャーーッョ♪(パチャョレック♪パチャョレーーック♪)

176 :名無し募集中。。。:2007/02/13(火) 04:11:43 ID:???0
てせ

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